高血圧だった80代女性患者の減薬事例
入院時、女性が持参した処方薬は内服薬7種類をはじめとする計10種類だった。なかでも慢性胃炎の薬であるピペタナート塩酸塩配合顆粒と皮膚掻痒症の抗ヒスタミン薬、抗めまい薬の3つは長年にわたって服用していた。
「女性は抗ヒスタミン薬だけで皮膚掻痒症が治まらなかったため、より作用の強いステロイド外用薬2種が追加処方されています。また診療を重ねる過程で、降圧剤や脂質異常症治療薬の服用も開始している。そうして薬が増えた後、胃のムカムカが生じたので胃腸薬が2種類、さらに増やされた。処方カスケードによって薬が増えていく典型と考えられます」(同前)
病院は持参薬の見直しに着手した。入院時の低カリウム血症や血圧上昇は胃腸薬の長期服用による有害事象と判断し、中止。抗めまい薬も〈高齢者ではかなりの頻度で皮膚掻痒感や胃腸障害が問題となるため一旦中止〉された。抗ヒスタミン薬も、「抗めまい薬の副作用による薬疹に対しての処方」と推察され中止に。
こうして“薬を増やす副作用”が疑われる薬を次々とやめたところ、胃の不調や掻痒感の訴えはなく〈全薬剤中止3日目で急激に症状軽快〉したという。経過観察の結果、降圧剤1錠(それまでのACE阻害薬からカルシウム拮抗薬に変更)だけは飲むことになったが、1日14錠から激減である。
「女性はその後も多剤投薬の中止を継続し、食事も食べられるようになった。抗めまい薬をやめたことで本来の悩みであった胃腸の調子が良くなったからでしょう。入院から23日後、元気に退院したそうです」(同前)
※週刊ポスト2021年9月10日号