現在、息子はなんとか快復を遂げ、今では近所へ買い物に行けるくらいの体力も戻ったという。そのことには安心したし、せっかく入学した大学での勉学にも励んで欲しいと思う反面、今すぐ大学を辞め、実家に戻ってきてほしいと密かに願っていると話す。
しかし、子を案じるがあまり、それを実行に移してしまうと、子供の将来を大きく左右してしまうことも事実。
北海道在住の自営業・島田直哉さん(仮名・40代)も、今年3月に就職で上京していた娘がコロナに感染したことで「重い決断」をしたと明かす。
「東京に憧れていた娘が、やっと東京の会社に就職できたんですが、このコロナ禍でうまくいくのか、とても心配をしていました。すると、嫌な予感が的中したのか、娘から『感染した』と電話が来て、目の前が真っ暗になったんです」(島田さん)
島田さんの話をまとめると、娘は会社内で感染したものと考えられたが、会社は自宅待機を命じるだけだったらしい。ではなぜ感染したと分かったのかといえば、同僚の感染を社員間だけで交わされたやり取りにより知った娘が、自主的に保健所へ問い合わせたことで検査を受けたからだった。この間、感染した場所であるはずの会社側が何らかの対策を講じているようには思えなかった。島田さんは、このままでは「娘が殺される」と感じ、その数分後には電話をし、仕事を辞めて帰郷するよう迫った。
「娘の夢を壊すことに他なりませんが、今、東京で一人暮らしをさせるのは、リスクがあまりにも高過ぎます。国も自治体も、病院も会社もなにも信用できず、自分の身は自分で守るしかないんです。娘を応援したい気持ちは当然ありましたが、断腸の思いです」(島田さん)
娘は島田さんの親心を汲み取ったのか、7月の終わりには会社を退職し、島田さんの元に戻ってきた。その後、検査で陰性も確認され体調には問題はないはずだが、帰郷してからの娘は人が変わったように塞ぎ込み、自室からもほとんど出て来なくなったという。
「もう一度東京に、なんて言える状況ではなく、先行きが全く見通せません。コロナが流行っていたとしても、日本に住んでいれば家で野垂れ死ぬことはないと思って、どこか安心している気持ちがありました。でも、そんなことでは防げない、それほどの危機。放心状態のような娘を見て心が痛みますが、死ぬよりはまし、まずは命が大切です」(島田さん)
「あの時、お父さんが実家に戻してくれてよかった」と娘と笑い合える日が近い将来訪れるのか。子を思う親たちは、複雑な心境の中で、コロナ禍の行く末を見守っている。