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追悼 深澤弘さんが語っていた「10対0でも聞いてもらえる努力」

名実況で知られた深澤弘アナ

名実況で知られた深澤弘さん。たびたび取材に答えてくれた(撮影・山崎力夫)

 プロ野球中継の“レジェンド”と呼ばれた元ニッポン放送アナウンサーの深澤弘さんが9月8日に亡くなった。85歳だった。「ニッポン放送ショウアップナイター」の実況を担当し、ミスターこと長嶋茂雄さんの引退試合(1974年)などでの名実況が広く知られている。

 深澤さんの訃報に際して、親交の深いミスターは「私の現役時代から近くで見守ってくれ、公私ともに支えてくれた取材者と選手を越えた親友でした」と追悼コメントを出している。生前の深澤さんは本誌・週刊ポストの取材でも、ミスターが試合後に自宅で深夜まで素振りを繰り返していた時、毎晩のようにその練習に付き合っていたことなど、様々なエピソードを披露してくれていた。

 2015年7月、週刊ポストに連載中だった『巨人V9の真実』の取材で、深澤さんがスポーツアナとして駆け出しだった頃の話をしてくれたことがあった。早大卒業後、1958年に入社したのは東北放送だった。その後、ニッポン放送に移ったのは1964年。東京五輪が開催されるため、東京の放送局ではアナウンサー不足となり、地方の局アナがヘッドハンティングされた。そのひとりが深澤さんだった。当時をこんなふうに振り返っていた。
 
「仙台(の東北放送にいた)時代は、今のように地元にプロ野球球団がなかったため、野球中継は高校野球と社会人野球だけ。他はニュースを読んだりしていました。僕はスポーツアナを目指していたので、これを機会に、東京でやろうと決意した。

 その年(1964年)は訓練期間の扱いで、先輩の実況中継を見たり、実際には放送しない模擬中継をしたりして練習を重ねた。本格的にプロ野球中継を担当し始めたのは、巨人のV9が始まった1965年でした。もちろんピッチャーでいえば5番手、6番手。でも中継は巨人戦ばかりだった。当時は巨人戦しかスポンサーがつかず、“巨人戦が何本ある”というのがスポンサーへのウリとなり、雨でも降らない限りなかなか他のカードの中継をしませんでした」

 深澤さんが実況を担当した試合は実に1600試合以上を数えるが、その大部分が巨人戦である。全ラジオ局が巨人戦を中継したが、それでも聴取率は3%あったという。

「今のラジオは0.8%くらいですからね。当時はかなりの人が聞いていた。タクシーはもちろん、商店街では各店舗からラジオのプロ野球中継が大きな音で流れていた。一斉にかけるからハウリングを起こすぐらい。みんな巨人に夢中だった。だから各局のアナウンサーも巨人戦には燃えた」

 アナウンサーにとっては、巨人戦を月に何本担当できるかで、一流かどうかが決まったという。当時のニッポン放送には6人のスポーツアナがいたが、3連戦の頭(1戦目)を誰が担当するか、競い合ったという。

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