芸能

中年の味を表現する北村有起哉 『ムショぼけ』の元ヤクザは実にハマり役

ドラマ『ムショボケ』の主演は実力派の名優・北村有起哉。キャストには板尾創路はじめ個性派俳優が顔を揃えた。今年10月よりABCテレビ・テレビ神奈川にて放映開始(C)ABC

ドラマ『ムショボケ』の主演は実力派の名優・北村有起哉。ABCテレビ・テレビ神奈川にて放映中(C)ABC

“秋の新作”が続々とスタートする。視聴者の分析の結果なのか、ドラマの世界でも多様化が進んでいるようである。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘した。

 * * *
 妻と久しぶりに手をつなぐ中年の男。夜景を背に、触れあう二人の指先、照れた表情が印象的。「心がほっこり温かくなる」「琴線に触れる」と話題になったCMがAmazonプライム「その特別な時間が、きっといちばんの特典です」版。

 仕事でいつも忙しい中年夫婦は、すれ違いばかり。相手のことを思いやる精神的な余裕も時間もない。そんなある時、夫は冷蔵庫の扉に貼られたメモの奥に、昔妻がくれた「いつでもこの頃に戻れる券」を見つけた。あの頃に戻ろう--そう思い立ち、仕事終わりの妻を迎えに行く……。

 たった十数秒の映像が詩情豊かに心に届く。ごく短い時間でメッセージを伝えきる役者さんたちの力もすごい。演じている彼ら自身「役者冥利に尽きる」はず。実は二人は本当の夫婦-北村有起哉さんと高野志穂さんの共演ということでも注目を集めました。

 このCMが共感を呼んだポイントに「中年の味」が隠れていると思います。人生経験を重ねて酸いも甘いもかみ分けているからこそ、短くシンプルな中に温かみや深みが表現できるのではないでしょうか。

 そう、北村さんはデビューから23年目、47才のベテランです。個性的な役柄でさまざまなドラマや映画に登場してきた、いわばピリリと効く山椒のようなバイプレーヤー。その北村さんが秋のドラマで「初めて連ドラ主演の座を掴んだ」というのだから嬉しい驚き。

劇中シーンより

劇中シーンより。キャストには板尾創路はじめ個性派俳優が顔を揃えた(C)ABC

 AmazonのCMが中年のロマンとユートピアを描いているとすれば、北村さん主演のドラマ『ムショぼけ』(ABCテレビ 日曜午後11時55分/テレビ神奈川 火曜午後11時)は、さしずめディストピア風ヒューマンコメディか。主人公の陣内は14年間刑務所に入っていた元ヤクザ。不器用で曲がった事が許せない陣内は、敵方の親分を射撃して刑務所へ。その間に自分の組から破門され妻には離婚され子どもたちも失った。14年ぶりに出所してシャバの空気を吸うと……すでに世の中はガラッと変化している。

 コンビニの袋は有料化され料金を請求されるし、タトゥーはもはや任侠のアイコンではなく一般人の趣味になっていて、両腕を見せても誰もおびえない。好きな場所で煙草を吸う自由もなくなり、スマホがなければ市民権さえ脅かされる日々。まさにディストピア……。

 たった14年という時間が、実に大きな落差を生み出している。一見何の変哲も無い日常の風景の中にある違和が少しずつ見えてくるプロセスが面白怖い。まるで今浦島太郎物語のようです。

 長期服役による「拘禁反応」、つまり「ムショぼけ」をテーマとした異色作ですが、同名の原作(小学館文庫)著者・沖田臥竜氏はまさしく元ヤクザ最高幹部。つまり実体験がベースとなっている原作だけあって奇妙なリアル感が満載です。プロデュースは『ヤクザと家族 The Family』や映画『新聞記者』等を手がけた藤井道人監督が担当し、エッジを効かせたブラックな笑いに包まれつつ泣かされるヒューマンコメディに仕上がっています。

 尼崎のロケなど丁寧に撮影された映像に遊び心が宿った演出もいい。何より主人公・陣内役の北村さんが、ぴたりとハマっています。

長く刑務所にいると「ムショぼけ」するという((C)ABC)

長く刑務所にいると「ムショぼけ」するという(C)ABC

関連記事

トピックス

アメリカの人気女優ジェナ・オルテガ(23)(時事通信フォト)
「幼い頃の自分が汚された画像が…」「勝手に広告として使われた」 米・人気女優が被害に遭った“ディープフェイク騒動”《「AIやで、きもすぎ」あいみょんも被害に苦言》
NEWSポストセブン
TikTokをはじめとしたSNSで生まれた「横揺れダンス」が流行中(TikTokより/右の写真はサンプルです)
「『外でやるな』と怒ったらマンションでドタバタ…」“横揺れダンス”ブームに小学校教員と保護者が本音《ピチピチパンツで飛び跳ねる》
NEWSポストセブン
復帰会見をおこなった美川憲一
《車イス姿でリハビリに励み…》歌手・美川憲一、直近で個人事務所の役員に招き入れていた「2人の男性」復帰会見で“終活”にも言及して
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
公設秘書給与ピンハネ疑惑の維新・遠藤敬首相補佐官に“新たな疑惑” 秘書の実家の飲食店で「政治資金会食」、高額な上納寄附の“ご褒美”か
週刊ポスト
複座型ステルス戦闘機J-20 米国のF-35に対抗するために開発された。第5世代ステルス戦闘機(写真=Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ)
【中国人民解放軍「最新兵器」】台湾侵攻や海上封鎖を想定した軍事演習も 就役直後の最新空母、ステルス戦闘機から“犬型ロボット”まで、性能を詳細に分析
週刊ポスト
高市早苗首相(時事通信フォト)
高市早苗首相の「官僚不信」と霞が関の警戒 総務大臣時代の次官更迭での「キツネ憑きのようで怖かった」の逸話から囁かれる懸念
週刊ポスト
喫煙所が撤去されてホッとしていたのだが(写真提供/イメージマート)
《規制強化の動き》加熱式タバコユーザーのマナー問題 注意しても「におわないからいいじゃん」と開き直る人、タクシー車内で喫煙する人も
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
モンゴル訪問時の写真をご覧になる天皇皇后両陛下(写真/宮内庁提供 ) 
【祝・62才】皇后・雅子さま、幸せあふれる誕生日 ご家族と愛犬が揃った記念写真ほか、気品に満ちたお姿で振り返るバースデー 
女性セブン
村上迦楼羅容疑者(27)のルーツは地元の不良グループだった(読者提供/本人SNS)
《型落ちレクサスと中古ブランドを自慢》トクリュウ指示役・村上迦楼羅(かるら)容疑者の悪事のルーツは「改造バイクに万引き、未成年飲酒…十数人の不良グループ」
NEWSポストセブン
現在は三児の母となり、昨年、8年ぶりに芸能活動に本格復帰した加藤あい
《現在は3児の母》加藤あいが振り返る「めまぐるしかった」CM女王時代 海外生活を経験して気付いた日本の魅力「子育てしやすい良い国です」ようやく手に入れた“心の余裕”
週刊ポスト
上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン