兄・航基の強みといえば、やはり力強い個性だろう。『おかえりモネ』では、金髪頭のハイテンションで登場した際、多くの視聴者に強烈なインパクトを与えた。航基が演じている後藤三生は、歴史ある寺の住職の息子。しかし、ロックバンドに熱中したり、ラッパー活動に目覚めたりと、他のどの登場人物よりも自由度の高い豪快なキャラクターを演じ、作品全体のムードメーカーを担っている印象だ。
また、三生の自由さは寺の跡取りというプレッシャーの反動から来るものでもあったが、決意を固め剃髪した93話での航基は、それまでのひょうきんさを覆す真剣味を声と表情にストレートに乗せて視聴者を驚かせた。周囲はもちろんのこと、視聴者にも三生の“本気”を伝えることに成功したのではないだろうか。
一方、弟・旺志郎の持ち味は、その素朴さにあると思う。作品のムードを左右するような個性的なキャラクターにハマる兄とは対照的で、純朴な等身大の若者役に非常によくハマる印象だ。『キネマの神様』で演じている主人公の孫の役も、『うみべの女の子』で演じているヒロインに淡い恋心を抱く中学生の役も、“個性”を打ち出した役どころではなく、いずれも素朴な若者だ。
とはいえ、一口に「素朴」と言っても、役はそれぞれ別もの。旺志郎は周囲の人物との関係性に合わせてキャラクターを巧みに演じ分けているようだが、こうした役に応じた差をどの程度まで表現すべきか、器用さが問われるところだろう。話題となった『おちょやん』では、実の両親を亡くし、ヒロインたちに“家族”として迎えられる青年に扮したが、表向きは明るい性格の若者ながら、本心では大人を信用できない人物だった。しかし、大人たちと交流するうちに次第に心を開いていく姿を、旺志郎はドラマのサブストーリーとして見事に展開していたと思う。同作で主として描かれていたのはヒロインの生涯だが、そこに旺志郎は控えめに寄り添い作品に貢献したのだ。
それぞれに魅力を発揮し、得意な役どころを掴んでいる前田兄弟。彼らの共演を望む声も多いが、実は『キネマの神様』に兄の航基もわずかながら出演しており、『奇跡』以来、10年ぶりの映画での共演が実現している。出演シーンが異なるため2人のやり取りは見られないが、10年の時を経て、好対照をなす演技派兄弟の演技は一見の価値があるだろう。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。