そんな田中理事長の“子飼い”とも言われた井ノ口容疑者は、周囲にいつも「自分の声は理事長の声と思え」と話していたという。田中理事長と懇意となり日大に入社し、アメフト部出身で悪質タックル問題当時はコーチだったが、選手と家族に口止めを図ったことが判明。理事と事業部の役職を辞任したが、2019年12月には事業部の取締役に、2020年9月には日大理事にも復帰。その理由は誰の目にも、田中理事長の後押しと映っていたようだ。理事長にとって、色々な意味で使い勝手が良かったのだろうと推測できる。
井ノ口容疑者が辞任したことで、一度は不正が正されたように思えたが、1年半後には復帰し、またも事件が起きる。組織として根本的な問題解決は出来なかったようだ。その心理的背景には、割れた窓を放置すれば、他の窓も壊され、仕舞いには大きな犯罪につながっていくという「割れ窓理論」があるように思える。
日大は井ノ口容疑者を処分したものの、それは窓ガラスを割れない強化ガラスに交換するというより、割れた箇所をビニールでふさいだだけの応急処置のようなもの。早々の復帰でビニールは破れてしまい、割れたままの窓はまた風通しがよくなってしまう。だが、周りには窓をしっかり直そうとする者はいない。その様子に井ノ口容疑者たちは、虎の威を借る狐のようにこれまで以上にやりたい放題するようになる。そんな状態ではなかったのだろうか。
風通しのよい割れたままの窓の方が都合が良い。そこで得をした人間は逮捕された2人だけなのか。今後の捜査が待たれるところだ。