安倍晋三・元首相(写真/共同通信社)
そうして決まった選挙公約の安全保障の柱が「敵基地攻撃能力」の保有だ。
「敵基地攻撃能力」とは、敵国からの弾道ミサイル攻撃を防ぐために、日本も戦闘機や地上基地から発射する精密誘導ミサイルなどで敵基地のミサイル拠点を攻撃して無力化する能力を持とうという考え方だ。
安倍氏が退陣直前の昨年9月11日に最後の「首相談話」で提起した、いわば“安倍政権の遺言”と言っていい。談話では昨年中に結論をまとめることになっていたが、菅義偉・前首相は「談話は閣議決定されたものではない」と先送りした。
そこで安倍・高市氏は、今度は逃げられないように岸田首相に総選挙で公約させたのだ。
公明党との板挟み
これが岸田政権の足元に仕込まれた“地雷”と言える。というのも、連立相手の公明党が敵基地攻撃能力の保有に断固反対しているからだ。
竹内譲・公明党政調会長は会見で、「いきなり敵基地攻撃論というのは、非常に危うい議論になる可能性がある。一歩間違えれば、日本が先制攻撃したと取られかねない」と批判し、「憲法上は保有可能だが、平和国家の日本という視点から採用していない」と全否定している。政治アナリスト・伊藤惇夫氏が指摘する。
「リベラル派の岸田総理は内心では敵基地攻撃能力の保有に消極的だが、総裁選で安倍さんに支持してもらった手前、表向きは検討すると言わざるを得なかった。この問題に手をつけたら公明党が激しく抵抗するのは明らかだが、安倍さんや高市氏ら自民党のタカ派は、総理が腰砕けにならないように目を光らせている。
かつて田中角栄の力で首相になった中曽根康弘は田中曽根内閣と揶揄されたが、したたかな中曽根は徐々に角栄と距離を取り、角栄が倒れると完全に一本立ちした。岸田総理にそれだけのしたたかさがあるとは思いにくいが、安倍さんはそれを警戒しているのです」
岸田首相は火中の栗を拾わざるを得ない。注文はそれだけにはとどまらない。
高市氏は総裁選公約の安全保障政策に、ほかにも「防衛費2倍(GDP比2%以上)」や防衛大綱などの見直しを盛り込み、来年度からの防衛力強化を打ち出した。年末の予算編成で防衛費を増やせというのだ。