小型測器「ドロップゾンデ」(画像提供:T-PARCII/名古屋大学・横浜国立大学)
台風災害のリスクは、台風の勢力だけによらず、日頃の備えや予測情報にも左右される。センター内の「台風観測研究ラボ」のメンバーは、南の海上に台風が発生するとチャーター航空機に乗り台風の目に突入、観測装置を内部に次々と落とす。台風時、観測用のチャーター航空機は台風の目へ突入。目の中で小型測器「ドロップゾンデ」を30個ほど次々と落下させて観測する。
測器本体は生分解性素材ゆえ、海中落下後も自然環境への影響はない。ハードな任務遂行で獲得した観測データは、構築する数値シミュレーションや研究データと照合し、台風予測と災害リスクの事前把握に役立てていくのだ。
筆保氏は台風研究の第一人者でありながら、在籍するのは教育学部である。
「僕は教育現場で気象学の魅力をもっと伝えたかった。なぜなら、天気や台風に興味を持つ子供たちが増えることで、次世代の気象学者が増え、それがこの国の気象防災の力につながるから。
防災教育のほとんどは、『台風を知らないと、あなたたちは台風が来たとき被害に遭います』と脅して勉強させているよう。『海の上で渦巻がなぜか発生し、台風となって、こんなに長生きする。どうしてなんだろうね?』と、まずは現象そのものに興味を持たせたい。分からない事象に集中する研究者と、分かる事象をきちんと伝える教育者。両者の視点を持つと、社会の問題解決につながる新しい発想が出るようになりました」(筆保氏)
自在な目線を武器に、台風のプラス面を社会へ還元する計画をも携え、気候変動に立ち向かう。
取材・文/山本真紀 撮影/小川伸晃 図版/タナカデザイン
※週刊ポスト2021年11月12日号