「まず、老後の一人暮らしが不安だというなら、安否確認サービスにどんなものがあるのかなど、ちゃんと実務的なことを調べておきましょう。弁護士さんによると相続問題は、遺産の額が少なくても起こるし、少ないほどこじれたりするそうです。
どうも多くの人は、弁護士はトラブルが起きてから頼むものと思っているようですが、むしろトラブルになる前に相談しなくちゃ。遺言だって、およそ実現不可能なことが書かれていたら、困るのは遺された家族ですよ」
医者にかかりつけがいるように、「弁護士にもかかりつけが必要」と考える江原さん。それは財産の多い少ないは関係ない。なぜなら、「自分が死んだら、家族が手続きをしてくれる」や「お墓のことは親戚が知っているから大丈夫」というのは、「ハッキリ言って幻想ですよ。どんなにいい嫁、いい婿でも、できた息子、娘でも」
これは、15年に及ぶ個人カウンセリング(現在は休止中)から得た実感だそうだ。多くの人生相談を受けてきた江原さんによれば、人間は「みんな執着が好き」なのだとか。それが家族のゴタゴタを招き、遺産相続問題に発展することも。
「墓じまいに踏ん切りがつかない」といったモヤモヤした気持ちから、果ては家の中が片付かないといった現実まで。原因は、どうやら執着にあるようだ。しかし、迷信や因習に惑わされず、実務的なことを整理していけば、執着も次第に断てそうな気がしてくる。
もっとラクに生きる方法を探りましょう
コロナ禍では、家族が看取ることのできない別れも多い。また従来のような人が集まるお葬式ができないという、新たな悲しみ、悔やみも増えた。オンライン葬儀といった新しい形式も出てきたが、迷信を気にするというのとは別の違和感を持つ人もいるだろう。
「お葬式は形式ではないのです。参列できないとか、直接、看取ることができなかったとしても、心の中で込めた思い、お別れや感謝の気持ちはちゃんと亡くなった人に届きますから、安心してください」。時代や社会事情によって、新しい供養の形も生まれるのだ。
また、終活中の親が勝手にお墓を購入し、子どもが「お墓なんて私は継がないよ」とケンカになるケースも少なくない。「『お墓を買おうと思うんだけど、どうかしら?』というコミュニケーションが、親子間にあるだけでトラブルは防げるんですけどね」と江原さんが言うように、「この世じまい」は、人生の後半にさしかかった親世代だけのものではない。
どの世代にとっても「この世じまい」を考えたり、実践したりすることは、トラブルを減らし、人生を明るく、軽やかに歩き続けるための重要なカギと言えそうだ。江原さんは「ラクに生きる方法を探っていくと、この世じまいも一緒にできちゃうし、人生の最期の瞬間まで幸せに充実します」と言い切る。
「もしかすると多くの方は、私のことを誤解しているかもしれません。『苦行を課しながら生きることが聖人の生き方だ』とかなんとかエハラは思っている、と。いやいや、心地よい暮らしをしなくちゃ、人生もったいない」
インタビューの間も、お墓のお掃除サービスを業者に頼んでいることなど、ざっくばらんに話してくれた。50代後半となった江原さんの、等身大の「この世じまい」は、どこまでも明るく、むしろ生きる希望に満ちているようだ。
身のまわりを整理し、心機一転をはかりたい気持ちが高まる年末年始。「この世じまい」を始めるには、ベストな時期かもしれない。
◆取材/文 やしまみき