2004年8月、アニメ制作大手と子会社を相手取った「声の二次使用料」訴訟の控訴審判決後、記者会見する原告の声優野沢雅子さん。原告声優360人が全面勝訴したが、以後もアニメ声優の報酬が改善されたとは言いがたい(時事通信フォト)
事務所としてはテレビアニメは宣伝、顔見せみたいなもの
いわゆる長者番付、国税庁が高額納税者名簿を発表していた時代、当時日本一売れていた人気女性声優が年収7000万円(推定)でランクインしたが、1990年代後半の古いデータとはいえ現在もこれは声優として破格の記録だろう。彼女の人気はアニメ声優であることが基本ではあったものの、ミリオンヒットが連発されていた1990年代に、発売するCDがオリコンチャート上位常連の人気アーティストとなっていたことの影響が大きい。アーティストとしての歌唱印税やグッズ展開もなく声だけの仕事で高額納税者に名を連ねることは間違いなく不可能だ。
「大物芸人の年収が10億とか、それって大手声優事務所の年商レベルですよ。声優界では大手でも世間的には中小企業です。大手芸能事務所のように都心の一等地に巨大な本社ビルを建てるような稼ぎはありません。稼げる声優は少ないですから事務所の取り分も芸能プロのようにはいかない。日々の細々とした仕事の積み重ねが現実です」
会社の年商で10億などまさしく中小企業、実際の声優事務所の売り上げはもっと少ないところばかり、2013年、声優事務所のラムズが破産したが2006年時点で年商6億5000万円、所属声優やアーティストの独立や多角経営の失敗で破産に至ったが、あれだけの人気声優とアニソン系アーティストを擁しながら最盛期でそのレベルである。ましてラムズは制作会社でもあった。それはともかくランク制、当時は平等なシステムだったのかもしれないが、30年間変わらない日本の平均賃金じゃあるまいし、ちょっと安過ぎやしないか。
「でもね、ランク制の廃止は難しいと思います。製作側からしても良い制度ですからね。必要以上に払わなくて済むわけですから。事務所としては、テレビアニメ出演は売り出すための宣伝、顔見せみたいなものですね」
だから声優事務所にとってゲームは稼ぎ頭、ゲームのジャンルによってはランク制が適用されるものの実際は緩い。人気声優はその人気相応のギャラで交渉できる。テレビアニメでは新人(ここでは便宜上の意味で使う)は主役でも端役でもランクが同じならギャラはほぼ同額だが、ゲームは一文字いくらのワード単価、もしくは収録時間による拘束料となる。指名の多い人気声優を持っていれば事務所は強気に出られる。
「ゲームはもちろんですがナレーションの仕事も事務所の柱です。CMなどのナレーションをいかに数こなせるか、数引っ張ってこられるかは営業の腕の見せどころです」
ナレーションといっても様々だが、とくに商品紹介など宣伝販促に伴う企業案件は大きい。テレビコマーシャルから店舗案内、解説ビデオや啓発キャンペーンまで大小あるが手堅い仕事であり、声のプロを擁する声優事務所からすれば本業中の本業ともいえる。
「年齢を重ねても実力があれば一生食べていけるのはまさにナレ(※ナレーション)のことですね、一般のファンには馴染みないかもですが、事務所の経営に欠かせません」