グラウンドにおいて王さんの偉大なところは、こんな8つも下の若造と勝負するときでも目をくりくり光らせて真剣になって向かってくる。本来なら“こんな若造くらい”って感じで気持ち的に余裕を持って対峙していてもおかしくないのに決してそうじゃない。来た球を必ずライトスタンドに持っていってやるという気迫をメラメラと見せてくる。

 昭和43年9月17日、甲子園の奪三振記録の場面なんて、約5万人のスタンドのファン、巨人ベンチ、阪神ベンチ、みんなわかってる。”江夏は王から三振を取りにいってる”と、見え見えの三振狙いをみんなが興味を持って見守ってくれていた。

 王さんにしたら、最高にプレッシャーだったと思うよ。いいバッターになればなるほど、不名誉な記録を残したくない。バットを短く持って当てに来てもいいのに、王さんは1回もしなかった。すべてフルスイング。あらためて王さんの偉大さを心に刻印され、この人と勝負ができる喜びに浸り、おれにとって最高のライバルやと実感した。

 プライベートでほとんど絡んだことがないけれど、一度王さんに頼み事があって連絡したことがあった。かつて王さんが使っていた、バット職人の石井順一さん製造の圧縮バットをもらいたくて午前中に電話したら「わかった」って言ってくれて、昼過ぎにわざわざ家の前まで持ってきてくれた。本当に誠実な人だよ。

(後編につづく)

聞き手・構成/松永多佳倫(まつなが・たかりん)/ノンフィクションライター。1968年、岐阜県生まれ。琉球大学卒業後、出版社勤務を経て執筆活動開始。著書に『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』(KADOKAWA刊)など。

※週刊ポスト2021年12月3日号

関連記事

トピックス

水卜麻美アナ
日テレ・水卜麻美アナ、ごぼう抜きの超スピード出世でも防げないフリー転身 年収2億円超えは確実、俳優夫とのすれ違いを回避できるメリットも
NEWSポストセブン
かつて問題になったジュキヤのYouTube(同氏チャンネルより。現在は削除)
《チャンネル全削除》登録者250万人のYouTuber・ジュキヤ、女児へのわいせつ表現など「性暴力をコンテンツ化」にGoogle日本法人が行なっていた「事前警告」
NEWSポストセブン
撮影現場で木村拓哉が声を上げた
木村拓哉、ドラマ撮影現場での緊迫事態 行ったり来たりしてスマホで撮影する若者集団に「どうかやめてほしい」と厳しく注意
女性セブン
5月13日、公職選挙法違反の疑いで家宅捜索を受けた黒川邦彦代表(45)と根本良輔幹事長(29)
《つばさの党にガサ入れ》「捕まらないでしょ」黒川敦彦代表らが CIA音頭に続き5股不倫ヤジ…活動家の「逮捕への覚悟」
NEWSポストセブン
5月場所
波乱の5月場所初日、向正面に「溜席の着物美人」の姿が! 本人が語った溜席の観戦マナー「正座で背筋を伸ばして見てもらいたい」
NEWSポストセブン
氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
田中みな実、寝る前のスマホ断ちで「顔のエラの張り出しがなくなった」 睡眠の質が高まり歯ぎしりが軽減された可能性
田中みな実、寝る前のスマホ断ちで「顔のエラの張り出しがなくなった」 睡眠の質が高まり歯ぎしりが軽減された可能性
女性セブン
AKB48の元メンバー・篠田麻里子(ドラマ公式Xより)
【完全復帰へ一直線】不倫妻役の体当たり演技で話題の篠田麻里子 ベージュニットで登場した渋谷の夜
NEWSポストセブン
”うめつば”の愛称で親しまれた梅田直樹さん(41)と益若つばささん(38)
《益若つばさの元夫・梅田直樹の今》恋人とは「お別れしました」本人が語った新生活と「元妻との関係」
NEWSポストセブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン