芸能

声を聞くのも簡単ではない… 名曲『心の旅』が描いた70年代の遠距離恋愛

『心の旅』は1973年9月10日付のオリコンシングルチャートで1位を獲得。87万枚を売り上げた(1973年9月時点)

『心の旅』は1973年9月10日付のオリコンシングルチャートで1位を獲得。87万枚を売り上げた(1973年9月時点)

〈歌詞は財津の経験をモチーフにした。上京を決意した時、1歳年下の恋人がいたが、既に就職していたその女性を東京に呼ぶことはしなかった。

「どうしてもバンドをやりたかったから。でもしばらくして別れの事実にジーンときた。クサい歌詞は恥ずかしかったけど、周りは『いい』って言ってくれてね」〉

『心の旅』は多くの若者、特に地方出身者の心を捉えた。『世代論の教科書』などの著書がある「未来ビジョン研究所」所長の阪本節郎さんはこう語る。

「1970年代前半は大学進学率が急上昇し、東京に一極集中化した時代です。多くの男子学生が地方から上京して進学や就職する一方、女性の大半は地元に残った。そのため恋人たちは離ればなれになり、遠距離恋愛をせざるを得なかったという時代背景があります」

 地元になかなか帰郷できず、電話しようにも結構なお金がかかる。そうこうするうちに、目移りする。そんな男子学生が多かった。

「私は地方出身者の多い大学に通っていたので、周りには遠距離恋愛をしている友人が多くいました。あの頃は東京・地方間で連絡がとりにくかった。アパートには電話が1つしかなく、頻繁に使っていたら大家が取りついでくれなくなったと、友人は怒っていました(笑い)。仕方なく公衆電話からかけると百円玉が次々と落ちていく。苦肉の策で電話のベルを3回鳴らして合図をして。それで気持ちを伝えたりね」(阪本さん・以下同)

 声が聞きたい──そんなささやかな願いも容易にはかなわなかった。

「ふたりの関係をこのまま維持できるのか……常に不安を感じている若者の胸に『心の旅』が響いたのです」

 当時の恋愛や結婚事情をひもとくと、1970年を前に見合い結婚と恋愛結婚の比率が逆転していることがわかる。

「1971年に、はしだのりひことクライマックスの『花嫁』、1972年に吉田拓郎の『結婚しようよ』、1973年にチェリッシュの『てんとう虫のサンバ』が流行りました。それらは、親に認められるのではなく、仲間に祝福されて結婚する歌。特に『花嫁』は駆け落ちを素敵に明るく描いている曲です。恋愛結婚を賛美する曲がヒットし、自由な恋愛を享受する空気感が広まっていきました」

 音楽は世代と結びついているものだと阪本さんは言う。

「世代や時代に音楽は大きな影響を与えています。曲とともに社会が転換していく。1970年代半ばから遠距離恋愛をする若者が増え、ポップス歌謡という新しいスタイルも生まれた。やはり『心の旅』は非常に革新的な曲だったと思います」(阪本さん)

関連キーワード

関連記事

トピックス

初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン