ライフ

【新刊】母と娘という主題を変奏曲で紡ぐ「星を掬う」など4冊

 冬の足音が聞こえてきた。そんなときには、温かい部屋で読書に没頭してみるのはどうだろうか。この冬におすすめの新刊4冊を紹介する。

book

再会した52才の母は若年性アルツハイマー。毒母と呼ばれそうな女達の心の声

『星を掬う』
町田そのこ/中央公論新社/1760円
 祖父母に育てられ、元夫の執拗なタカリとDVに遭っている千鶴。ラジオ番組に母との思い出を投稿したことから「さざめきハイツ」に導かれる。そこでは実母の聖子やカリスマ美容師の恵真、離婚した介護士彩子が肩寄せ合って生きていた。母と娘という主題が四者四様の変奏曲で紡がれる中、真の主題は自分の不幸を誰かのせいにするという自己憐憫。聖子の身の処し方に憧れる。

book

映画で編集力とプレゼン力を鍛える。Twitter活用で思いがけない仕事の機会も

『仕事と人生に効く 教養としての映画』
伊藤弘了/PHP研究所/2255円
 映画から世界の多様性や他者の生を学ぶ人は少なくない(文学も同じ)。でも仕事に効くとは!? 丸めれば社会人としての能力の底上げや人格磨きに役立つ。日本の四大巨匠(黒澤、小津、溝口、成瀬)のほか、是枝裕和論、ヒッチコック『裏窓』の騙し術などを紹介。ナチのプロパガンダ映画『意志の勝利』と近年の話題作『ボヘミアン・ラプソディ』に構造的な類似を見る項は圧巻。

book

滑らかな新訳で蘇る半自伝的成長小説。食事や住居、カフェなど時代回顧の面白さも

『人間の絆』
サマセット・モーム著 金原瑞人訳 新潮文庫 上下巻 各1045円
 短編で名高いモームの自伝的長編。フィリップ少年は両親と死に別れ、牧師の伯父夫婦に引き取られる。名門パブリックスクールでの鬱屈した日々、檻から出るドイツ遊学、パリの画学生として知るボヘミアン的青春、英国に戻り医学生になる中、人生という織物の意味(真の解放)を悟る。多彩な登場人物で19世紀末の男女の姿を映す群像小説になっているのも読書の興趣を増す。

book

インタビューや対談も加えた新編集の文庫。世界の塩コレクションから政界スキャンダルまで

『吉祥寺デイズ うまうま食べもの・うしうしゴシップ』
山田詠美/小学館文庫/858円
 詠美さんは仕事場に通い、執筆後に自宅に戻って台所に立つ。前者は日本語と格闘する時間、後者は夫との会話も弾む開放の時間だ。その喜びを凝縮したのが「うまうま食べもの・うしうしゴシップ」の副題。稚気溢れる夫婦の関係に羨ましさが募る。反対に『新潮45』休刊のきっかけになった杉田水脈暴言。今回も衆院比例で当選し、この国どうなってんだ!? ね、詠美さん!

文/温水ゆかり

※女性セブン2021年12月2日号

関連記事

トピックス

石原さとみ(プロフィール写真)
《ベビーカーを押す幸せシーンも》石原さとみのエリート夫が“1200億円MBO”ビジネス…外資系金融で上位1%に上り詰めた“華麗なる経歴”「年収は億超えか」
NEWSポストセブン
神田沙也加さんはその短い生涯の幕を閉じた
《このタイミングで…》神田沙也加さん命日の直前に元恋人俳優がSNSで“ホストデビュー”を報告、松田聖子は「12月18日」を偲ぶ日に
NEWSポストセブン
高羽悟さんが向き合った「殺された妻の血痕の拭き取り」とは
「なんで自分が…」名古屋主婦殺人事件の遺族が「殺された妻の血痕」を拭き取り続けた年末年始の4日間…警察から「清掃業者も紹介してもらえず」の事情
(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
熱を帯びる「愛子天皇待望論」、オンライン署名は24才のお誕生日を節目に急増 過去に「愛子天皇は否定していない」と発言している高市早苗首相はどう動くのか 
女性セブン
「台湾有事」よりも先に「尖閣有事」が起きる可能性も(習近平氏/時事通信フォト)
《台湾有事より切迫》日中緊迫のなかで見逃せない「尖閣諸島」情勢 中国が台湾への軍事侵攻を考えるのであれば、「まず尖閣、そして南西諸島を制圧」の事態も視野
週刊ポスト
盟友・市川猿之助(左)へ三谷幸喜氏からのエールか(時事通信フォト)
三谷幸喜氏から盟友・市川猿之助へのエールか 新作「三谷かぶき」の最後に猿之助が好きな曲『POP STAR』で出演者が踊った意味を深読みする
週刊ポスト
ハワイ別荘の裁判が長期化している(Instagram/時事通信フォト)
《大谷翔平のハワイ高級リゾート裁判が長期化》次回審理は来年2月のキャンプ中…原告側の要求が認められれば「ファミリーや家族との関係を暴露される」可能性も
NEWSポストセブン
今年6月に行われたソウル中心部でのデモの様子(共同通信社)
《韓国・過激なプラカードで反中》「習近平アウト」「中国共産党を拒否せよ!」20〜30代の「愛国青年」が集結する“China Out!デモ”の実態
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《自宅でしっぽりオフシーズン》大谷翔平と真美子さんが愛する“ケータリング寿司” 世界的シェフに見出す理想の夫婦像
NEWSポストセブン
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(時事通信フォト)
《潤滑ジェルや避妊具が押収されて…》バリ島で現地警察に拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26) 撮影スタジオでは19歳の若者らも一緒だった
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! プロ野球「給料ドロボー」ランキングほか
「週刊ポスト」本日発売! プロ野球「給料ドロボー」ランキングほか
NEWSポストセブン