ドラマ『イカゲーム』より (c)AFP PHOTO / NETFLIX / YOUNGKYU PARK(AFP=時事)

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最大の強者は誰だ?

 さて、次は【3】哲学の層である。僕がシーズン1を見ながらもっとも注目していたのは、ゲームを仕掛けた側の正体とその動機だ。仕掛ける側の代表として登場しているフロントマンは、これらのゲームは平等さ(公平さ)を取り戻すためだと言う。ただしこのゲームで本当に平等さは取り戻せるのだろうか。

 先程も述べたように、本作の中で競われるゲームは、ギャンブル的な要素が強い。しかし、ギャンブルは本当に公平なのだろうか。この作品のゲーム(ギャンブル)参加者が勝利して得るものは金だが、負けて失うものは命である。このような得るものと失うもののアンバランスこそ不平等ではないのか? ギャンブルでは最大の強者は胴元だ。実際、本作品の後半にはこのゲームを鑑賞する大富豪らが描かれる。彼らがゲームを鑑賞するVIPルームと、ゲーム参加者のバトルフィールドとの間には平等などありはしない。

 そのような批判に答えるかのように、このVIPの中のひとりが、鑑賞者の立場を離れて自らゲームに参加する。それは平等への参加だと捉えることができる。なぜそんなことをするのだろう。あの爺さんには平等に戦って勝てた時代やフィールドがあったのかもしれない。

 ビー玉のゲームの競技場となった下町を模したセットに入った時、「懐かしい」と爺さんは言う。彼は、セットのような庶民の家に生まれ、そこから這い上がって巨万の富を築いたのではないか。ならば、彼は劣勢から捲土重来を果たした勝者なのだろう、などと想像を掻き立てられる、そんな仕掛けがあることが『イカゲーム』の突出している点なのである。

 僕がいまあげつらったような問題を、次のシーズンでどのように展開していくのかは非常に気になるところだ。もしも、「本当の平等とは? それは実現可能なのか?」にまで踏み込んで説得力を持ってドラマを展開できるのならば、【3】をも抉ることになり、大傑作となるだろう。ハイコンセプトな設定で物語を走らせ、エンターテイメント性を確保した上で、社会を問い、哲学的な設問にも斬り込む画期的な作品となることはまちがいない。

 ただ、ストーリーメーカーのひとりとして思いを巡らせば、これはそうとう難度の高い仕事である。ただそのぶん、期待感も抑えきれないでいる。僕の予想を裏切って、すさまじい傑作が出現することを心待ちにしつつ、次のシーズンを待ちたい。

【プロフィール】榎本憲男(えのもと・のりお)/1959年和歌山県生まれ。映画会社に勤務後、2010年退社。2011年『見えないほどの遠くの空を』で小説家デビュー。2015年『エアー2・0』を発表し、注目を集める。2018年異色の警察小説『巡査長 真行寺弘道』を刊行。シリーズ化されて、「ブルーロータス」「ワルキューレ」「エージェント」「インフォデミック」と続く。『DASPA 吉良大介』シリーズも注目を集めている。近刊に『相棒はJK』、2022年1月に真行寺シリーズのスピンオフ作品『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』を刊行予定。

  

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