“ハイコンセプト止まり”なのか?

 前者が用いるときは、切れ味鋭いナイスな企画という意味になるが、後者の場合は、いくぶん揶揄というか侮蔑的なニュアンスが含まれる。つまりは、あられもない手法で鑑賞者の気を引くことには熱心だが、どこか物足りない、薄っぺらさが透けて見える作品というような評価が含まれている。ではなにが足りないのか? どこが薄っぺらいのか? 簡単に言ってしまえば、人間が描けていない、社会が描けていない、などという点が、減点されていると思われる。

『イカゲーム』がハイコンセプトな作品であることはまちがいない。では、“ハイコンセプト止まり”の作品なのだろうか。つまり、『イカゲーム』がただ単に、奇抜な設定から面白いお話を転がしているだけの作品なのか(それのどこが悪いんだという議論は横に置く)。それとも、奇想天外な設定によってエンターテイメント性を確保しながらも、人間に、社会に、世界に迫ろうとしているのか。類似する日本コンテンツとの差はここにある。

 僕はストーリーを重層的に捉えている。いちばん表層にあるのが、【1】運動の層である。とにかくここを激しく動かそうとするのが、ハイコンセプトな作品だ。エンターテインメント作品は【1】の層が充実していないと話にならない。

 その下には【2】社会の層がある。登場人物が生きている社会はどのようなものなのかを描くことによって、僕らが生きている社会のさまざまな局面や問題をあぶり出す。通常、「社会派」と呼ばれるのはこの層が分厚い作品だと言える。

 さらにその下には【3】哲学の層とでもいうべきものがある。もっと深く、本質的ななにかを問う層である。これについては後で述べる。

 さて、『イカゲーム』はなにについて語っているのだろう。シリーズの中盤当たりで、ゲームを有利に進めるために内部情報を得ようとした参加者と、彼らに情報を漏洩した管理人が、このゲームの黒幕と思しきフロントマンに射殺されるシーンがある。その時、フロントマンは「お前たちはもっともかけがえのない平等というものを毀損した。だから許されない」(大意)と語る。この飛拍子もないゲームの裏に、平等への願望がこめられていると言うのである。どういう意味だろう?

  

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