サン松本クリニック院長の松本光正医師
昭和の時代の思考
血圧を下げると脳卒中になるとは、どういうことか。「脳卒中」には、「脳梗塞」と「脳出血」、「くも膜下出血」の3つがあり、発症のしくみが異なる。
「脳出血やくも膜下出血は血圧が上がって細い血管が破れることで起きますが、脳梗塞は、血管が詰まって起きます。血管が詰まりかけてくると、体は血圧を上げて血流を良くし、血栓を押し流そうとします。そこで血圧を下げてしまうと、ますます詰まりやすくなる。血圧を下げれば脳出血やくも膜下出血は防げますが、今の脳卒中患者の8割近くが脳梗塞です」
松本医師によると、多くの医師は「高血圧だから脳梗塞になる」と勘違いしたまま、患者の血圧を下げて脳梗塞を引き起こしているため、「医師が脳卒中にしているようなもの」だという。
このような齟齬が起きた背景には、食生活の変化があるという。
「戦後すぐの世代は栄養状態が悪かったため、血管がもろく、破れやすかった。だから、脳出血、くも膜下出血が多く、『高血圧で脳卒中になる』というイメージが広まった。しかし、今は栄養状態が良くなったため、血管が高血圧に耐え、破れにくくなった。それなのに無理に血圧を下げるのは昭和の時代で思考が停止しているのではないかと思います」
松本医師は、むしろ高齢者は血圧を下げすぎることに注意すべきだという。通院患者のなかには、こんな症例があった。
長年、松本医師が診ていた80歳の女性は、足腰が弱ったため近所の病院に転院。転院先で減圧治療を始めたところ、娘から「母が一日中ぼーっとしている」と、相談が寄せられ、認知症の初期症状が窺えた。治療をやめたら、しばらくして元気な姿に戻ったという。
「顔にシワが増えるのと同じで、血管も老化して細く硬くなるので、血流で体の隅々まで栄養や酸素を行き渡らすには高い圧力が必要です。年齢が上がると血圧が上がるのは当然のことです。私は老人ホームで嘱託医をしていますが、医師が無理に下げるので頭がふらふらしている入居者が多い」
今の高血圧の基準では年齢ごとの基準はなく、成人は一括りに140以上は高血圧と診断され、下げることとされている。
「加齢による薄毛を『薄毛症』とは呼ばないのに、高血圧は『高血圧症』という病名をつけて治療対象にするのはおかしい。高血圧は合併症の兆候が窺えれば治療をする方針で問題ありません。かかりつけ医が診ていれば初期で気づけるはずです」