露店によっては発電機を使うのでガソリン(軽油やガスの発電機もある)を携行している店もある。8年前の2013年に京都の福知山で花火大会の大爆発事故があった。ベビーカステラの露店主が発電機用のガソリンが入った携行缶を圧抜きもせずに蓋を開け、気化したガソリンが噴出、他店もたこ焼きや焼きそばなど火の気が多いことも相まって大爆発を起こした。
「そりゃ調整ネジも回さないで入れっぱなしの携行缶開けたら吹き出しますよ、それも露店だらけなんでしょ、あちこちで火を使ってるし電球だって裸で吊るされてるんじゃ大爆発です。ガソリン(の引火点)はマイナス40℃以下ですから、いつでもどこでも引火する危険があるんです」
この事故は3名が亡くなり59名が重軽傷となった。店主は2014年に禁錮5年の実刑となったが、取り返しのつかないこととはいえ事故は事故、決してわざと他人を無差別に殺そうとしてガソリンを犯罪に使ったわけではない。
「これも昔の話ですが、ガソリンなんか携行缶じゃなくても灯油に使うポリタンクとかでも挿れてあげてました。サラ金が燃やされたりして厳しくなりましたね」
「サラ金が燃やされた」というのはいまから20年前、青森県で2001年に起きた当時の消費者金融大手、武富士の弘前支店がガソリンで焼かれて従業員5人が死亡した大事件である。いまの若い子にはピンと来ないかもしれないが、1990年代までいわゆる「サラ金」と呼ばれる貸金業が跋扈、多くの有名テレビCMが連日流され、芸能人がイメージキャラクターとなり、当の武富士もVリーグに「武富士バンブー」という名のバレーボールチームを持っていた(2009年解散)。その武富士に借りた金を返済できなくなった男が逆恨みしてガソリン(この事件では厳密には混合ガソリン)で火をつけた。
「ポリタンクでガソリンを売れなくなったのもその時期だと思います」
これも古い話だが、2003年に名古屋市でポリタンクにガソリンを入れた男が運送会社に人質をとって立てこもり自爆、人質の支店長と巻き込まれた機動隊員が亡くなった。これらの事件をきっかけに法整備がなされ、ガソリンの購入が厳しくなった。
「ただ現実はね。危険物なのは私らも資格を持つプロだから重々承知なんですが、仕事や生活で使う人たちもいるわけだから携行缶のお客に売らないわけにもいかないんですよ」
もっともな話で、トラクターや自脱型のコンバインでいちいち自走して来いというのもガソリンスタンドが遠かったり、都市部の農家でも交通事情もあったりで日々の仕事となると難しいだろう。乗用田植え機に至っては原則的に公道走行できないし、手押しだからと耕うん機を延々スタンドまで押して歩くわけにもいくまい。チェーンソーやヘッジトリマーを持って市中をウロウロするのも別の意味で危ない。車で運ぶにしても作業のたびに(多くはタンク容量が少ないため)ガソリン切れでスタンドまで行くのは面倒だ。混合ガソリンを作らなければいけない場合もある。そもそも自動車販売店やバイクショップだって大手はともかく小さな個人店では昔ながらのグレーな保管体制の店も多い。部外者は事件が起きたからああしろ、こうしろといくらでも言えるが現実は直接給油以外の販売禁止なんて仕事では無理だ。