「今から言っとく。あいつ、若林好き」

 萩本が大御所になって以降、周囲は気を遣い、「なんか変なこと言ってるな」と感じても突っ込まず、流していたのだろう。そして、聞き手は“欽ちゃんの良い話”としてまとめがちだったように思う。それでは、本来の彼の持ち味は引き出されない。天下を取る人物は、他人とは一味も二味も違う。前出の著書『まだ運はあるか』にはこんなエピソードも載っている。

〈数字をとるにも楽をしちゃいけない。だから番組の打合せも、応接間なんかでやってはいけないとかさ。テレビ朝日の玄関でやったことありますよ。「こんなぬくぬくした所で仕事してるからいい考えが出ないんだ。玄関でやろう、玄関で」って、真冬の寒ーい時にみんなで玄関の前で灰皿持って、しゃがんでさ。そうすると、通る人が「何やってるんだろう」って見るから面白いよ。〉

 欽ちゃんは良い意味で“変人”なのだ。そうでなければ、芸能界の頂点になど立てない。40代半ばの頃、萩本は自分の語彙力不足を感じて河合塾に通っていた時期があったという。騒ぎになるため、予備校の要請で家庭教師に切り替えた後の話をこう述べた。

萩本:(家庭教師の)先生に突っ込みながら。先生の話はつまらないって言って。
若林:そんなこと言っちゃかわいそうでしょ。呼んでんだから、あなたが。
萩本:「何がつまらないの?」って言うから、「先生ね、教えよう、教えようとしてるから、つまらない」
若林:そりゃ教えようとするでしょ!(笑)
萩本:英語で日本人が勘違いしてる話とかね、そういう話しなよ。
若林:求め過ぎでしょ、家庭教師に。

 コメディアンである萩本は若林に突っ込まれることで、生き生きと話し続けた。番組の最後、萩本は1人で感想をこう述べた。

〈幸せな1時間だったって感じね。あんまりタレントさんって好いたことないんだけど。今から言っとく。あいつ、若林好き。最後にね、永(六輔)さんの言葉であんの。「もう友達っていらない。いらない中でね、1人増やすことにした」っていう。(中略)いらない中に友達1人どうしても作りたくなったヤツがいたっていう。こっから、もう鍵閉めて入れない。春日、ごめんな。もう入れる箱がいっぱい。ありがとう〉

 丁寧に扱うことで、人の良さを消してしまうこともある。若林は根底に敬意と尊敬の念を持ちながら、的確に突っ込んだ。それが、欽ちゃんの心を動かしたのだろう。

『キンワカ60分』は特番という事情もあってか、CM直後のジングルがなかった。これは、スタッフがその時間さえもトークに回したいと感じたのかもしれない。ぜひ、定期的な特番としての放送を願いたい。そして、『あちこちオードリー』(テレビ東京系)のゲストにも欽ちゃんを呼んでほしい。

■文/岡野誠:ライター、松木安太郎研究家。NEWSポストセブン掲載の〈検証 松木安太郎氏「いいボールだ!」は本当にいいボールか?〉(2019年2月)が第26回『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』デジタル賞を受賞。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)では本人へのインタビュー、野村宏伸など関係者への取材などを通じて、人気絶頂から事務所独立、苦境、現在の復活まで熱のこもった筆致で描き出した。

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