一方、久能の言葉に反応する周囲の役者たちの演技も素晴らしく光っていました。まず、薮警部補を演じた遠藤憲一が凄まじい緊張を漂わせていた。ピクリと皮膚が動くだけで内面の感情の変化が伝わってくる。青砥刑事役の筒井道隆から、冤罪事件の過去を抱えている人間の複雑さが伝わってきた。池本巡査役の尾上松也はおふざけ風の狂言回しがピタリとはまっている。
そして紅一点、新人刑事・風呂光聖子役の伊藤沙莉。静かに歯を食いしばる風情が非常にいい。我慢し続けてきた組織の矛盾、マグマを抱えている人の心の叫びが無言のうちに視聴者に伝わってきました。
このドラマが発するメッセージも思索的でユニーク。人は多面的で複数の顔を持っている。現実にはいくつもの真実が併存する。人は主観でしかものを見られない。だから人の数だけ真実がある--そうしたいわば哲学的なテーマを、人間の葛藤を通して伝え切ったあたりも圧巻。これぞ、コロナ時代の斬新なドラマ表現と言えるのかもしれません。
どうやら撮影自体は昨年6月には大半を撮り終えていたもようで、コロナ禍のさなかでの作品作りだったはず。昨年前半といえば芸能界でも感染が拡大し、出演者のコロナ感染による撮影中断や放送延期も相次いだ時期でした。ドラマの中に漂う張り詰めた緊張感はそうした危機的状況から生じた部分もあるのかもしれません。
接触を避け人もセットもロケも限りなく引き算していくことが要求されるコロナの時代に、舞台的演出をテレビドラマで大胆に試みる醍醐味たるやアッパレ。フジテレビは今、厳しい経営状況の下にあると聞きます。看板番組に大鉈を振るいコストカットを断行し、職員の早期退職も募っているさなかとか。今後は「”ドラマのフジ”路線を狙っている」というニュースも目にしましたが、果たしてこのドラマがフジテレビの躍動を支えていくのか。第一話「見逃し配信」では歴代最速100万再生を突破したことが発表されました。ドラマの緊張感が2話以降もきっちりと続くのか、大注目です。