芸能

菅田将暉『ミステリと言う勿れ』 舞台的演出をテレビで試みる醍醐味たるやアッパレ

番組公式HPより

番組公式HPより

 新作ドラマの封切りのタイミングは心躍るものだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。

 * * *
 1月10日、冬ドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系 月曜午後9時)がスタートしました。初回スペシャルの印象を一言でいえば、90分間画面に見とれてしまった。心を持って行かれてしまった。特に当方は原作(田村由美氏の同名コミックス)を読んでいないだけに、予想外の展開と着地も含めて衝撃的でした。

 何がどう面白かったのだろう。何が心を掴んだのか。

 ドラマが終わって考えてみるに……第一話の特徴としてまず言えるのは、映像的な動きが非常に少なかったこと。限られた場所と人。大半が取り調べ室の中。それなのにこれほどフィクショナルな世界が膨らみ、見ている人の気持ちを揺さぶるとは……。

 主人公は大学生・久能整(菅田将暉)。殺人犯と疑われ警察の薄暗い一室で何日間も取り調べをうける。と設定は非常にシンプル。取調室は逆光気味。顔に陰翳が落ちて表情もクリアには見えない。そして机といくつかの椅子、その他に物がほとんどない。

 殺風景な空間。その中で久能が語り出すと言葉が全体を動かし始める。そのセリフは異常に長い……見慣れたテレビドラマとは決定的に違っていました。一言でいえば「舞台とテレビドラマが融合した世界」に見えました。

 たとえば一般的なテレビドラマの場合は、できるだけ状況を再現したセットやロケ現場が用意される。仕事のドラマであれば職場、家庭ドラマならリビングや玄関、青春ドラマなら教室と現実に似せた空間の中で、登場人物たちをめぐるさまざまな出来事が発生してはそれを映像的に見せていく、という風に。それに対して『ミステリと言う勿れ』は、全くと言っていいほど映像に依存していない。再現映像は圧倒的に少なくて、役者たちの会話によって物語が展開していった。いわば、舞台演出の手法の新鮮さが目立ちます。

 舞台では、たとえセットがなくても主人公が「ここは私の職場です」といえばそのように見えてくる。いちいち視覚的な再現性を追いかけなくても「約束ごと」によって物語が動いていく虚構の面白さ。見ている人もその「約束ごと」を受け入れて一緒に虚構の世界を味わう。

 それだけではない。久能の表情を観察すると、ほとんど動きがない。まばたきもせず、眉間のシワも寄せず、口も大きく開けず。表情は最小限、その抑制的な演技によってよけいに言葉は尖り、人々の想像を刺激する。久能を演じる菅田将暉さんは、一つ一つ丁寧にピンで止めるようにして言葉を置いていきました。淡々と語る中に鋭い論理性や批評性が輝き出す。長セリフを語る集中力は突出していて、久能という人物の造形もブレや迷いがない。中には原作イメージとズレている、と違和を指摘する原作ファンもいるようですが。

 そして、時々挿入されるバッハやチャイコフスキー等のクラシックが物語世界を彩り、場を一気に転換させていく。言葉・セリフによる展開。モノがそぎ落とされた空間。照明を駆使した光と影。音楽による場面転換--まさしく舞台的な演出術の極みでしょう。

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン