ドラマの八重は、笑顔を取り戻せるか(c)NHK
ドラマの時代考証担う専門家の仮説
八重はいったいどうなったのか。これについて史料は一切語らないが、ありがたいことに、今回のドラマで時代考証の筆頭を務めている坂井孝一氏がその著書『鎌倉殿と執権北条氏 義時はいかに朝廷を乗り越えたか』(NHK出版新書)で、断片的な状況証拠から、大胆な仮説を提示してくれている。
氏の仮説の結論だけを述べれば、八重は同母姉の夫である三浦義澄(佐藤B作)に預けられたのち、「阿波局」という呼び名で、頼朝の御所で官女として働き出す。頼朝としては北条政子の手前、妾にすることはできないが、いつまでも近くに置いた。誰かの妻にすれば政子も安心するだろうと考え、江間氏の所領を受け継いだ北条義時と再婚させた。そうした生まれた男子が、義時の後継者となる北条泰時——。
確かに大胆な仮説だが、非常に面白く、ドラマの落としどころにも適しているのではないか。三谷氏がこの説にのっとってくれれば、悲しみの淵に叩き落されたガッキー八重が、真の笑顔を取り戻してくれる。そう切に願いたい。
北条氏の元来の所領と江間氏の所領は狩野川をはさんで隣接しており、現在、江間公園となっている場所が、北条義時の屋敷跡だったとされている。そこから一本西の道には北条義時夫妻の眠る北條寺があるが、ここに眠る妻は八重ではなく、三度目の結婚相手のようである。
八重がどこに眠るかという詮索はよしておこう。『鎌倉殿の13人』はまだ始まったばかり。主人公である義時の成長も気になるが、ガッキー八重からも目が離せない。
【プロフィール】
しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)など著書多数。最新刊に『鎌倉殿と呪術 怨霊と怪異の幕府成立史』(ワニブックス)がある。