ここで、バイアグラがEDに効くメカニズムをおさらいしておこう。
男性が性的刺激を受けると、脳から神経を介して陰茎に信号が送られる。すると陰茎海綿体の動脈が拡張し、そこに血液が流れ込んで勃起に至る。
だがこの時、「PDE(ホスホジエステラーゼ)5」という酵素が働くと、陰茎を勃起状態から通常の状態に戻す作用が生じてしまう。EDに悩む多くの人は、このPDE5の働きにより血流が低下して、勃起状態を維持できないわけだ。
「バイアグラにはPDE5の働きを阻害する作用があります。それにより、健常な男性と同様に陰茎の血管拡張を維持することができ、勃起を保てるのです」(永井医師)
“脳のゴミ”を攻撃
バイアグラがPDE5の働きを阻害して、血管拡張をもたらすのは陰茎だけではない。
心臓から肺へ向かう肺動脈の血圧が高くなる「肺動脈性肺高血圧症」(指定難病)の患者が、バイアグラの有効成分であるシルデナフィルを服用した場合、肺動脈の血管を拡張して症状を抑える効果が得られる。
このため2008年1月にシルデナフィルを有効成分とする肺動脈性肺高血圧症の治療薬「レバチオ」が認可された。
では、そのバイアグラがなぜ、アルツハイマー病の発症を抑える可能性があるのか。前出・永井医師が語る。
「詳しいメカニズムはまだわかっていませんが、PDE5を阻害する働きがアルツハイマー病の抑制にも関係すると考えられます。実際に過去の論文では、PDE5 阻害薬がマウスの認知機能を改善するとのデータが発表されています」
アルツハイマー病は、「アミロイドβ」と「タウ・タンパク」というたんぱく質の“ゴミ”が脳内に蓄積し、脳神経細胞を変化させることで発症すると考えられている。
バイアグラがアルツハイマー病を7割減らすとした冒頭の研究チームによると、アミロイドβとタウ・タンパクの両方を標的として作用する薬剤を探したところ、バイアグラの成分であるシルデナフィルに行き着いたのだという。
そこで研究チームは、アルツハイマー病患者から採取して培養した幹細胞をバイアグラに曝露させた。その結果、バイアグラが脳神経細胞の成長を促し、アルツハイマー病の原因と考えられている2つのたんぱく質の蓄積を防げる可能性が示されたのだ。