そうした黒木華の演技は、作品それ自体のクオリティを上げることにも貢献していると小野寺氏は指摘する。
「周囲に求められる類型的なイメージを、そのまま演じてしまう俳優が、日本では少なくありません。それはサービス精神の表れでもありますが、結果としてリアリティを損なう要因にもなっています。そしてそれが、近年評価の高い韓国映画・ドラマとの完成度の差にもつながっています。その意味で黒木華は、求められるハードルをクリアした上で、作品の格を上げる演技ができる存在だといえるでしょう。
それだけでなく、彼女の演じるキャラクターは、ミステリアスで何を考えているか分からない、底知れない怖さを持つようになってきています。それが分かりやすく表現されているのは、映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(2021年)です。同作で黒木華は、不倫していることを予感させる思わせぶりな妻の役を演じていました。アルカイックスマイルのような微笑を浮かべながら、どのようにも受け取れる曖昧さを意図的に持続させることで、観客に恐怖を与え翻弄し、サスペンスを盛り上げています」(同前)
小野寺氏によれば、今や「黒木華に蒼井優のイメージを重ねること自体がナンセンス」だという。
「蒼井と黒木は、それぞれが日本映画を代表するといっていい、稀有な俳優になっているといえます。近い性質を備えていることは事実ですが、お互いにここまでキャリアを積み、成長を遂げたわけですから、もう黒木華に蒼井優のイメージを重ねるという見方は、すでにナンセンスになりつつあるのではないでしょうか。
いまでは黒木華の“黒木華としての演技”を、送り手側も受け手側も期待しているはずです。蒼井優のイメージから無理に脱却するのでなく、俳優としての自然なレベルアップによって他とは代え難い存在となった彼女が、今後さらにどう進化していくか、非常に楽しみです」(同前)
『ゴシップ』のリアルタイムの視聴率は低迷しているが、各種動画配信サービスでもドラマを視聴できる今の時代、視聴率だけを基準にドラマの価値を判断することはできない。今後、黒木華の演技をきっかけにドラマが再評価されることもあり得るのではないだろうか。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)