それが『愛しい嘘〜優しい闇〜』では、今までのイメージをかなぐり捨てて、かつての昼メロドラマを彷彿させる猟奇的な演技で迫ってくる徳重さんの姿があった。妻・優美(黒川智花)を執拗に追いかけ回す姿は、ホラーの域。妻が友人と車で話しているだけでも「どうしたら家でじっとしていてくれるのかな?」。警察官という立派な職務と、誰かを愛して暴走する気持ちのバランスを取ることができていない。ちなみに第4話では、妻の不倫相手を突き止めようと、歯止めが利かない姿を見せる。

 画面を二度見してしまった。軍団での末っ子イメージが払拭できていなかったので、まさかこんな方向に路線変更するとは予想外。「え、この人、どっかで見たことあるけれど……?」と、エンディングロールで俳優名を確認してしまった。ただ野瀬役のインパクトは非常に大きく、放送中は失礼ながら本編を差し置いて、彼の演技の話題で盛り上がっている。

 その姿、もう影の主役だ。清廉で漢気のあるブランディングの軍団であれば、この怪役はキャスティングされることはなかったはず。彼は新しい場所で、新しい魅力を叩き出した。そしてここから正念場を迎えていく。

 彼が出演する今後の作品を見守りたい。いやまずは、野瀬の行方を見届けることが優先か。ただこの先気掛かりなのは、野瀬役の強烈さを武器にして、バラエティ番組に出ることだ。できればそれは控えてほしい。あの怪演を笑いに変えた瞬間に、手にした新たな魅力が雲散霧消してしまうような気がしてならないので、ね。

【プロフィール】
小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。近著に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)。2022年3月に新刊発売予定。静岡県浜松市出身。

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