1983年10月22日、国鉄赤字ローカル線廃止の第1号となった白糠線の「お別れ列車」。国鉄民営化で廃線が激増、その後も北海道の在来線は減る一方(時事通信フォト)
鉄道の有用性を働きかけたい
札沼線から切り捨てられた苦い記憶、そして現在は留萌本線の存廃で揺れている沼田町だからこそ「鉄道を残さなければならない」と声をあげることができたわけだが、人口3000人の小さな町が発したメッセージは簡単に大きくならない。広がりを欠けば、シミュレーションした金銭的な支え合いの仕組みにも綻びが出てしまうだろう。なによりも、グズグズしているうちに鉄道がどんどん廃止されてしまう。一刻の猶予もないのだ。
「鉄道ルネサンス構想における金銭面でのシミュレーションは、細かく詰めたものではありません。しかし、北海道の鉄道は厳しさを増しています。まず声をあげて、賛同の輪を広げることが先決だと考えたのです。昨今は脱炭素が注目されるようになっているので、その点でも鉄道の有用性を働きかけられるようにしていきたいと考えています」(同)
新幹線の開業で、並行在来線が経営危機に瀕する事態は北海道だけの現象ではない。全国各地で起きている。
今秋には、九州新幹線の長崎駅-武雄温泉駅間が開業を予定している。同区間は西九州新幹線と呼ばれ、まだ部分開業でしかないが、今後は九州新幹線の新鳥栖駅まで延伸する計画だ。
西九州新幹線が開業すれば、ここでも並行在来線である長崎本線、長崎本線が切り離されることによって佐世保線や大村線にも影響が及ぶ。これらの存廃問題が浮上することになるだろう。そうした事態を見越し、沿線市町村の一部からは在来線特急でも所要時間が変わらないことを理由に西九州新幹線に対して反対が出ていた。
地方都市は多くがマイカーで移動するため、地域住民の鉄道利用は少ない。在来線の利用者は主に高校生で、しかも朝夕のみ。それが、ますます鉄道の維持は非効率という声を強くする。しかも、少子化により高校生の人数は年を追うごとに減っているので、バスで十分という声は強くなる。
沼田町が提起した鉄道ルネサンス構想は北海道に限定した話だが、同じような立場に置かれている市町村は少なくない。個々の市町村で鉄道を維持することは難しくても、北海道や九州といった広範囲で自治体が連携すれば、新しい可能性が生まれることもあるだろう。
果たして、沼田町に続いて声をあげる市町村は現れるのか?