“持たざる者”はバブルの恩恵を受けず、給与すら減る可能性も
格差といえば、近年は日本の不動産市場においても、格差が急速に広がっている。長嶋さんいわく「一般に日経平均株価と不動産価格は連動性が高い」とのこと。しかし、対象の不動産が都心から離れれば離れるほど、その連動性は弱まっていく。昨今、日経平均株価に連動するようにして都心部の不動産価格は上昇しているが、郊外の不動産はゆっくり(あるいは立地によっては急激に)下落している。
バブル景気やリーマン・ショック前のプチバブルの際には、都心部の不動産価格上昇の後を追うように、郊外、地方都市の不動産も値上がりしてきた経緯がある。しかし、今やそうした動きは限定的であり、一部の不動産のみに資金が集中。“部分バブル”ともいうべき状況になっている。しかも、今後は外国資本の流入などで、さらにバブルが加速する可能性も高い。
これらの状況を踏まえて考えると、一部の有望な株や不動産などの資産を一定以上保有しない限り、“持たざる者”として格差の下限のほうへと沈んでいくリスクが高くなる。資産バブルの恩恵をまったく受けられないばかりでなく「IT・AI・ロボット化の進展で仕事が減り、給与も減る……といった事態も想定されます」と長嶋さんは指摘する。
“持たざる者”から脱却するには、有望な資産を保有する、不良債権になり得る不動産があるなら手放す、働き方を見つめ直すなど、いくつかの手立てが考えられる。個人投資家であれば、もちろん株などの金融商品を買うのも一案だが、バブルといえどすべての銘柄が上昇するわけではないので、銘柄研究は必須だ。また、仮想通貨やNFTアートといった、新しい資産に対するアンテナを張ることも重要だろう。
「バブルというからには、いつか突然に弾けて終わりが来ます。投資をするなら、撤退のシナリオも必ず思い描いておかなければなりません。技術革新によってビッグベンチャーが誕生し、株式市場の勢力図が塗り替えられる可能性も十二分にあるので、今強い株がずっと強いと思い込まないことも大切です」
コロナ禍で混沌とする今の時代、知識で荒波を乗り切っていけるように武装する必要がありそうだ。
【プロフィール】
長嶋修(ながしま・おさむ)/1967年、東京都生まれ。不動産コンサルタント、さくら事務所創業者・会長。不動産デベロッパーで支店長として幅広く不動産売買の業務全般を経験後、1999年にさくら事務所を設立。“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”の第一人者として活動する。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任。2008年にはホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を目指し、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任する。メディア出演や講演、出版・執筆活動も精力的に手掛け、『100年マンション』『不動産格差』(日経新聞出版)など著書多数。2019年に始めたYouTubeチャンネル『長嶋修の不動産経済の展開を読む』(現在は『長嶋修の日本と世界を読む』 に改題)では、不動産だけではなく、国内外の政治経済、金融、歴史などについても解説。広範な知識と深い洞察に基づいた的確な見立てが注目を集めている。