寿命まで大病知らず
この老化細胞を除去すれば、老化は止まるのではないか。そう考えて、今、世界中で老化細胞を除去する研究が始まっているが、南野教授の老化細胞除去ワクチンは世界をリードする存在だ。
「最近のがん治療薬は、免疫を活性化してがん細胞を除去するものがありますが、それに近い。私が研究している老化細胞除去ワクチンは、老化細胞に特有のたんぱく質に抗体がとりついて、それを目印にして免疫細胞の白血球に攻撃させるという仕組みです。自らの免疫の力を増強して、老化細胞を除去します。
新型コロナワクチンも、ウイルスに抗体がとりついて、それを白血球が殺すので、仕組みは同じ。対象を老化細胞に変えたイメージですね」(同前)
ワクチンの効果はどれほどのものなのか。
「マウスを使った動物実験では、1回注射すると20週くらい抗体が上昇し、それから半年間に老化細胞が半分くらい除去されることが確認できました。
肥満マウスに接種したところ、内臓脂肪に蓄積した老化細胞が除去され、糖代謝異常が改善されました。動脈硬化モデルマウスでは、動脈硬化巣を縮小させ、高齢マウスではフレイルの進行が抑制、早老症モデルマウスに対しては、寿命の延長効果が確認されました。従来の老化細胞除去薬に比べ、副作用が少ないことや効果の持続時間が長いことも確認できました」(南野教授)
まだ動物実験の段階だが、今後はアルツハイマー病を含めた様々な加齢関連の疾患での検証に加え、5年後を目処に人での安全性試験を開始する計画だという。
日本人の平均寿命は年々延び続け、男性で81.64歳、女性で87.74歳(2020年、厚労省「簡易生命表」)に達している。この老化細胞除去ワクチンが実用化されれば、さらに寿命は延びるのか。
「あくまで健康寿命を延ばす治療です。老化に伴い、脳梗塞や心臓病、認知症などといった生活の質が極めて落ちる病気がありますが、それを寿命のぎりぎりまで抑え、元気な状態で過ごせるようにするのが目標です」(南野教授)
※週刊ポスト2022年3月11日号