ドラマの舞台は1980年代、米ソ冷戦時代のアメリカ。まさにプーチン氏が対外スパイ部門で東ドイツに潜入していた時代と同じです。ワシントンで暮らすフィリップ(マシュー・リス)とエリザベス(ケリー・ラッセル)は子供二人と一軒家で生活し、一見すると典型的なアメリカ人夫婦。旅行会社を経営し仲が良い夫婦ですが、しかし裏の顔はKGBのロシア人スパイ。
米国に潜伏し米国人になりすまし、ソ連の利益のためになることはありとあらゆる手管で諜報活動していく。当時はまだスマホもネットもない時代。乱数表による暗号解読、盗聴、百面相のような変装、万年筆に仕込まれたカメラ。美人妻エリザベスのみならず夫フィリップも異性相手にハニートラップを仕掛け機密情報を盗み出していきます。危険とあらば暗殺工作も辞さず、遺体の手と首を切断し捨て…どんな任務も遂行していく。平凡なアメリカの生活風景の中で、ソ連の生々しい諜報活動という「見えない日常」が夫婦を通して浮き彫りになっていくのです。
もちろんドラマであり脚色も誇張もあり、今回の戦争のヒントを解き明かすわけではありませんが、ロシア人のスパイがアメリカで活動している時、祖国にいかなる思いを馳せていたのか、国への忠誠心がイデオロギーとして凝り固まっていった時どうなるのか。このドラマは単なるスパイドラマの「スリルとサスペンス」に留まらず、人があらぬ方向へと暴走していく哀しい姿を浮き上がらせていきます。
スパイ夫婦の二人にとって、少しずつ比重を増していく問題がありました。それは、アメリカで生まれそして育った娘と息子の存在です。親がソ連のスパイであること知らない、アメリカで生まれた子どもたちと、ソ連愛国主義の親はいかなる関係を作るのか、あるい対峙していくのか。親と子の複雑な葛藤や心境が描かれていく中に、どこかプーチンとウクライナの関係が重なって見えてしまうのです。