ライフ

60代記者が振り返る「社会主義国で生まれ育った人」との会話

(GettyImages)

オバ記者がソ連時代に旅した思い出を語る(GettyImages)

 ウクライナ侵攻という蛮行に及んだロシアは、かつてソビエト社会主義共和国連邦だった。女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子氏が、ソ連時代の思い出を振り返る。

 * * *
「マダーン、ジャストモーメント、マダーン」

 私が初めて外国でそう呼ばれたのは、1983年、モスクワの宿でのこと。

「マダーン」って、誰? 後ろを見ても誰もいない。ってことは、安いコットンパンツにスニーカーを履いた26才の姉ちゃん、私のことだ。

 初めての海外旅行で乗った飛行機がアエロフロート・ロシア航空。ロシアがまだソビエト社会主義共和国連邦だった頃。

 格安航空券といえば、24時間近くかけてヨーロッパにたどり着く南回りのパキスタン国際航空が人気だったけど、アエロフロートなら15時間。往路でモスクワに1泊しなければならないことを除けば、日本航空とそう変わらないんじゃないか。結婚2年目の私と元夫は、まぁ、大した考えもなく、初めての海外旅行に胸を膨らませていた。

 ところが、出発直前に大韓航空機撃墜事件が起きた。領空を侵犯したからと、ソ連の防空軍が民間の大韓航空機を撃ち落とした事件で、東京駅前のアエロフロートのオフィスにチケットを受け取りに行ったら、そのビルを機動隊の車両が取り囲んでいるではないの。「この旅、ヤバイかも」と思ったものの、本当のところ、何がどうヤバイのかピンときてなかったんだよね。

 飛行機は予定通り成田から出発したんだけど、(あっ、これは日本と違うわ)と強烈に思ったのは、いまでいうCA、当時のスチュワーデスたちの風貌よ。ガッチリとしたアゴに剛毛がうっすら生えた、腰回りたっぷりの中年女性から「ンッ!」とランチのトレーを無愛想に渡されたときから不穏な感じだったのよね。

 私たちはたばこを吸ったり、「ライ麦パンって意外においしいね」とか言って気を紛らわせていたのを覚えている。

 そうして飽きるほど寝たり起きたりしていたら、機内からモスクワ郊外が見えてきた。白樺の木々の合間に赤い屋根の家が点在していて、まるで童話の中の世界。着陸の瞬間は、白鳥の上に乗っていたかと思うほどふんわり。

 いったんは穏やかな気持ちになった私たちだけど、モスクワの空港に降り立った途端、口数がめっきり少なくなった。なにせ空港内は銃を持った軍人だらけで、アエロフロートの人から「ここで待っていろ」と言われたきり2時間放置。たまりかねて軍人に様子を聞こうと近づくと、ギロリとした目と平らに持った銃の口がこちらを向く。

 やっとパスポート検査をする部屋に通されてホッとしたのもつかの間、係官が私の顔を見る。パスポートの写真を見る。顔を見る、写真を見る。これを何十回も繰り返すんだわ。そして最後は、「つまんねえ」と言いたげにポイとパスポートを投げて寄こした。

関連キーワード

関連記事

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
立花孝志容疑者(左)と斎藤元彦・兵庫県知事(写真/共同通信社)
【N党党首・立花孝志容疑者が逮捕】斎藤元彦・兵庫県知事“2馬力選挙”の責任の行方は? PR会社は嫌疑不十分で不起訴 「県議会が追及に動くのは難しい」の見方も
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン