(c)2022「牛首村」製作委員会

体当たりの演技に挑戦(c)2022「牛首村」製作委員会

 演技未経験者のKoki,を人気シリーズの主演に迎えたことに不安を感じていた人は少なくないだろう。筆者もそうだったというのが正直なところ。しかしそれは、冒頭の数分で杞憂に終わった。彼女は大胆かつ繊細な感情表現に長けており、端的に言って驚くほど上手いのだ。

 本作でKoki,が挑んだのは、東京で生活する奏音と、あることを理由に奏音と生き別れてしまった妹・詩音という2人の人物。双子である彼女たちは異なる環境で育ってきたため、やはりタイプも異なる。詩音は同級生たちの酷い悪ふざけに怯え、その様子を動画で目にした奏音は果敢にもその地へ向かうような人物だ。見た目は瓜二つだが、表情や振舞いからまるで違う人物にしか思えない。そんな“一人二役”を演じてみせているのである。

 Koki,はモデルとしての経験があるためか、初演技とはいえ“魅せる”ことに長けている。だからこそ、なぜデビュー作がホラー映画なのか疑問に思っていた。彼女を魅力的にスクリーンに登場させられる作品は他にもあっただろう。しかし、『牛首村』を観て納得した。ホラー映画にメインキャラクターとして登場する者の多くは、“喜怒哀楽”すべての感情の激しいアウトプットが必要とされるものだ。正体不明の不安や、それから解き放たれた際の安堵の表情。理不尽にも大切な人を奪われたときの激しい怒りと哀しみの叫びや、おぞましいものを目にして歪む表情まで、Koki,はそのどれもを丁寧かつ的確に表現していた。まさに最良の形での俳優デビューとなった印象だ。

 監督の清水崇といえば、ジャパニーズホラーのパイオニア。『犬鳴村』の三吉彩花、『樹海村』の山田杏奈と山口まゆ、彼女たち主演俳優の現在の活躍ぶりを見れば、製作陣がKoki,にかけたであろう期待の大きさは一目瞭然。今後も多方面からオファーの声がかかるのではないだろうか。もはや彼女は“2世俳優”のイメージを払拭しているどころか、そうした枠にも収まっていないように思う。本作で最も恐ろしいのは、Koki,という1人の俳優の才能なのかもしれない。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。

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