スポーツ

高校ラグビー「幻の決勝戦」 大人の暗黙の連携プレーにケチをつけるべきでない理由

ラグビーの全国高校選抜大会決勝の代替の練習試合でプレーする報徳学園と東福岡の選手たち(共同通信社)

ラグビーの全国高校選抜大会決勝の代替の練習試合でプレーする報徳学園と東福岡の選手たち(共同通信社)

 時節柄、議論が分かれる事態は生じやすいものである。コラムニストの石原壮一郎氏が「幻の決勝戦」について考察した。

 * * *
 まさに、こういうことを「粋な計らい」と言うのでしょう。新型コロナ関連の話題は暗い気持ちになるものがほとんどですが、久々に明るいニュースを見ました。ラグビー「リーグワン」の埼玉パナソニックワイルドナイツが、激しく落ち込んでいたであろう高校生に救いの手を差し伸べたのです。

 3月31日に行なわれるはずだったラグビーの全国高校選抜大会(埼玉・熊谷ラグビー場)の決勝戦。東福岡(福岡)と報徳学園(兵庫)が戦うはずでした。ところが、東福岡(福岡)がこれまで対戦したチームから陽性者が確認されたということで、前夜になって大会実行委員会から「辞退勧告」(という名の出場停止処分)を受けてしまいます。決勝戦は中止になり、もうひとつの決勝進出チームである報徳学園(兵庫)が不戦勝で初優勝となりました。東福岡は前年の優勝校でもあります。

 戦えなかった2校の選手は、さぞ無念だったことでしょう。ところが、驚きの展開が待っていました。ワイルドナイツが急遽、決勝戦が行われるはずだった31日に、埼玉に保有するグラウンドで2校の“練習試合”をお膳立てしたのです。ワイルドナイツは東福岡の選手にPCR検査を行ない、全員が陰性だったことも公表しました。

 ワイルドナイツは「たまたま今日は練習が休みでグラウンドが空いていたから」と控えめにコメントしていますが、そんな簡単な話ではありません。見方によっては実行委員会(日本ラグビーフットボール協会?)への当てつけになってしまいます。

 しかも、チームのYouTubeチャンネルでライブ配信を行なったり、日本代表の松田力也選手と堀江翔太選手が解説を担当したりなど至れり尽くせり。お????りや批判を受けるのを覚悟の上で、不運な高校生たちに何かしてあげられずにはいられなかったのでしょう。もはや勝敗は二の次ですけど、試合は37-10で東福岡の勝ちでした。

 コロナ禍になって日本人は、もともと大好きだった「事なかれ主義」にさらに磨きをかけています。厳しすぎるとも思えるレギュレーションだったことも、出場停止ではなく「辞退勧告」という形を取って、「強制ではなく学校側が決めたこと」という体裁を保とうとするところも、ベースには「事なかれ主義」があると言えるでしょう。

 しかし、ワイルドナイツの関係者は違いました。これが「ラガーマンシップ」ってヤツでしょうか。その素早い決断力と行動力と深いやさしさには、大きな拍手を送らずにはいられません。我ながら単純ですが、ラグビーというスポーツのイメージが一気にアップしました。ネット上の反応も、大半が称賛の声です。

 ただ、どんな話題のときも、称賛する人ばかりではありません。意地でも「いい話だね」「よかったね」と反応したくない人が、一定の割合でいます。東福岡以外にも新型コロナウイルスがらみで出場を辞退した高校が4校あったことから「不公平だ」と憤ってみたり、試合をしてもし感染者が確認されたら誰が責任を取るのかと言ってみたり。

「いちばんつらい思いをしている人に合わせるべきだ」と主張するのは、無意味な平等主義に過ぎません。別名「足の引っ張り合い主義」で、これも日本人が得意とする考え方のひとつ。しかも当事者でもない第三者がそこを批判するのは、勇気ある行動に水を差して何もできない自分を正当化する一面もあり、同じく「足の引っ張り合い主義」です。

関連記事

トピックス

俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
AIの技術で遭遇リスクを可視化する「クマ遭遇AI予測マップ」
AIを活用し遭遇リスクを可視化した「クマ遭遇AI予測マップ」から見えてくるもの 遭遇確率が高いのは「山と川に挟まれた住宅周辺」、“過疎化”も重要なキーワードに
週刊ポスト
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト