「僕は84歳になりましたが、いまだに現役ビジネスマンです。体調が続く限りは、仕事を続けていきたいと思っています」
よく経営を退いたあとにも同じ会社に顧問や相談役という形で籍をおいて、財界活動などに勤しむ方がいますが、僕はそんなのはつまらないと思いました。ソニーに囚われない、新しいビジネスにチャレンジできる機会だと考えました。
翌年、自分が創業者となって社員10人ぐらいの小さな会社をつくりました。69歳になるときでした。
社名は「クオンタムリープ」と言います。クオンタムリープとは、量子力学の世界で「非連続の飛躍」を意味します。ソニーが成長を遂げてきたように、企業にはあるときパーンと伸びることがあります。ベンチャー企業のそういう非連続の飛躍を手助けしたいと思って、この会社をつくりました。
若い世代との交流が増え、これまで僕が関わってきたベンチャー企業は100社を超えました。
人生に引退はない
年を取ってからチャレンジなどできるのか、それは経営者だからできることじゃないか、と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
あなたが、ある仕事のノウハウを身につけ、しっかり会社に貢献してきたサラリーマンであれば、これまで築いてきたキャリアはとても大きな価値を持っています。多くの人は、それに気づいていないだけです。
たとえばうちの会社で、あるベンチャー企業から経理ができる人がいないという相談を受けて、大企業で経理をやっていたベテラン社員を紹介して、再就職してもらったことがあります。
経理や財務は、会社にとって重要な管理の一つの機能です。漫然と会社に配属されたまま経理をしていた人では厳しいですが、意識してそのノウハウを自分に溜めていた人であれば、そこには大きな需要があります。
企業経営にはビジョン、実行力、そして管理の三角形が必要ですが、ベンチャー企業に足りないのは、財務および管理なんです。ベンチャー企業は技術やサービスなどのアイデアから始まりますが、会社が大きくなってくると、途端に財務や管理の人材が足りなくなる。ましてや、上場近くなると、もうパニックです。上場のためには財務と管理をきちんと掌握しているCFO(最高財務責任者)の存在が不可欠です。
よくベンチャー企業と大企業は対比する文脈で語られますが、実はベンチャー企業が本当に成長したら、大企業の持つノウハウを使う必要が出てくる。
だから成長するベンチャー企業は、大企業の管理部門等のベテラン社員を欲しているんです。