スポーツ

V9の真実 ONの意識変革を呼び込んだ金田正一氏の「食事」と「散歩」

金田正一氏は長嶋にトレーニングの基礎を伝授(写真/共同通信社)

金田正一氏は長嶋氏にトレーニングの基礎を伝授(写真/共同通信社)

 1965年から1973年にかけての巨人の9年連続日本一 ──野手は王貞治、長嶋茂雄の「ON」を中心に柴田勲、黒江透修らが脇を固め、投手陣には400勝投手の金田正一や城之内邦雄、堀内恒夫らタレントが揃っていた。そんな「不滅の記録」を打ち立てた常勝軍団を束ねたのが、名将・川上哲治だ。(文中敬称略)【全4回の第1回】

 * * *
 川上哲治が、水原茂から巨人の監督を引き継いだのは1961年だった。すでにON(王貞治、長嶋茂雄)を擁すなど、充実した戦力があったが、1961~1964年は1位→4位→1位→3位とシーズンごとに浮き沈みがあった。

 不滅の記録である「9年連続日本一」が始まる1965年シーズンに先立ち、川上は“大補強”に出る。目玉はB級10年選手制度(※現在のFA制度の前身とも言える制度で、10シーズン以上現役選手として球団に在籍した選手に、移籍権利などが認められた)を行使した国鉄の大エース・金田正一の獲得だった。対巨人戦で通算65勝(歴代1位)の金田の獲得は、川上の肝煎りだったという。2019年に他界した金田は生前、『週刊ポスト』の取材にこう明かしている。

「ワシが巨人へ移籍したかった以上に、川上さんがワシを欲しがった。川上さんは、ワシがライバル球団の中日に移籍することを恐れていた。直前のシーズン、国鉄で27勝を挙げていたワシが中日に行くか、巨人に来るのかでは大違いじゃ。9連覇の始まりは金田なくしてなかった。ワシが言うんだから間違いはない」

 巨人に移籍後、金田は通算400勝の金字塔を打ち立てるが、その加入は単に“星勘定”のプラスをもたらしただけではなかった。チームの意識改革が進んだのだ。金田はこう振り返っている。

「巨人に移籍して一番驚いたのは食事だった。宮崎キャンプで、宿舎の『江南荘』で出された料理を見て呆れたね。冷めたトンカツが食卓に並んでいるのよ。すぐに川上さんに“私は自由にさせてもらう”と伝えたら、一発でOKとなった。川上さんも意識改革したかったんじゃないかな。

 ワシは部屋でメシを炊き、鍋をして、温かい食事を食べた。いわゆる『金田鍋』じゃ。すぐに末次(利光)、土井(正三)といった選手が集まってきて、もちろん王や長嶋も来た。ワシは“食べないヤツは負ける”“健康でないと野球はできない”という信念を持っていたからね。キャンプでは、早起きして散歩で体を動かす習慣も導入させた」

 川上の金田獲得によってチームの意識が大きく変わった。そのことはONも口を揃えて認める。

 長嶋は「チームの雰囲気を作る大きなきっかけは、やはりカネさんの加入でしたね。ワンちゃん(王)とボクに練習はこうやるんだと教えてくれて、ONで率先してカネさんの真似を始めた。それを他の選手も真似して、相乗効果が生まれました」(『週刊ポスト』2015年1月16・23日号)と語り、王は「カネさんから学んだのは自分への投資でした。“野球選手は体が資本”というのがカネさんの哲学。有名な『金田鍋』もよくご相伴にあずかりました」(2014年9月19・26日号)と述懐している。

 意識の変革はチーム全体へと波及し、V9の礎が築かれたのだ。

(第2回へ続く)

※週刊ポスト2022年4月22日号

関連記事

トピックス

フリー転身を発表した遠野なぎこ(本人instagramより)
「救急車と消防車、警官が来ていた…」遠野なぎこ、SNSが更新ストップでファンが心配「ポストが郵便物でパンパンに」自宅マンションで起きていた“異変”
NEWSポストセブン
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
モンゴルを訪問される予定の雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、「灼熱のモンゴル8日間」断行のご覚悟 主治医とともに18年ぶりの雪辱、現地では角界のヒーローたちがお出迎えか 
女性セブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
「『逃げも隠れもしない』と話しています」地元・伊東市で動揺広がる“学歴詐称疑惑” 田久保真紀市長は支援者に“謝罪行脚”か《問い合わせ200件超で市役所パンク》
NEWSポストセブン
佐々木希と渡部建
《六本木ヒルズ・多目的トイレ5年後の現在》佐々木希が覚悟の不倫振り返り…“復活”目前の渡部建が世間を震撼させた“現場”の動線
NEWSポストセブン
東川千愛礼(ちあら・19)さんの知人らからあがる悲しみの声。安藤陸人容疑者(20)の動機はまだわからないままだ
「『20歳になったらまた会おうね』って約束したのに…」“活発で愛される女性”だった東川千愛礼さんの“変わらぬ人物像”と安藤陸人容疑者の「異変」《豊田市19歳女性殺害》
NEWSポストセブン
児童盗撮で逮捕された森山勇二容疑者(左)と小瀬村史也容疑者(右)
《児童盗撮で逮捕された教師グループ》虚飾の仮面に隠された素顔「両親は教師の真面目な一家」「主犯格は大地主の名家に婿養子」
女性セブン
組織が割れかねない“内紛”の火種(八角理事長)
《白鵬が去って「一強体制」と思いきや…》八角理事長にまさかの落選危機 定年延長案に相撲協会内で反発広がり、理事長選で“クーデター”も
週刊ポスト
たつき諒著『私が見た未来 完全版』と角氏
《7月5日大災害説に気象庁もデマ認定》太陽フレア最大化、ポピ族の隕石予言まで…オカルト研究家が強調する“その日”の冷静な過ごし方「ぜひ、予言が外れる選択肢を残してほしい」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で、あられもない姿をする女性インフルエンサーが現れた(Xより)
《万博会場で赤い下着で迷惑行為か》「セクシーポーズのカンガルー、発見っ」女性インフルエンサーの行為が世界中に発信 協会は「投稿を認識していない」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《東洋大学に“そんなことある?”を問い合わせた結果》学歴詐称疑惑の田久保眞紀・伊東市長「除籍であることが判明」会見にツッコミ続出〈除籍されたのかわからないの?〉
NEWSポストセブン