「司法はもちろん、加害者を裁きます。でも、『池袋暴走死傷事故』というものだけに矮小化してはいけないと思うんです。同じことが起きないようにするには、まず現実を知ってもらうこと。
もちろん苦しんでる人を見るのはつらいし、怖いかもしれない。でも怖いと思ってほしくないんですよ。外を歩くのが怖いとか、可哀想というだけで終わってほしくない。ご自身の生活の中で捉えて、プラスにしてほしいんです」
そして願わくば、松永さんたちが国やメーカーや世の中に発信し、問題提言していることに興味をもっていただけたら、と話す。
松永さんは誹謗中傷と意見は分けて受け止めている。
「意見は大事で、それは自分の学びに変えるようにしています。ただ、SNSで受けた誹謗中傷(*注1)や、民事裁判で被害者遺族がさらに傷つけられる二次被害(*注2)など、自分が体験して、これは変えなくちゃいけない、と感じたことは行動を起こしていきます」
【*注1:誹謗中傷/松永さんのTwitterの返信に書かれていた「金や反響目当て」などどいった誹謗中傷について、警察に被害届を提出。警視庁が侮辱容疑で捜査を行い、20代の男性が関与を認める供述をした】
【*注2:二次被害/松永さんは、係争中の損保会社との民事裁判で、攻撃的かつ挑発的な言葉を受けるなど犯罪被害者や遺族がさらに心を傷つけられる二次被害について身を以て知った。ビジネスである以上、損保会社が交渉しようとするのは理解するが、人としての尊厳を傷つけないよう、保険業界およびそれに伴う代理人にルールを作るべき、と訴えている】
結婚式は真菜さんの地元の沖縄で行った。「これはその時のメインキャンドルですね。結婚式はめちゃくちゃ楽しくて、いつか第2結婚式またやろうね、なんて真菜と話していたんです」
「2016年の結婚記念日、11月4日に、ウェディングアニバーサリーで真菜にプレゼントした手作りの写真集です。当時、まだ若くて金銭的にも厳しかったからできるだけ倹約して。100均で材料揃えて、真菜が寝た後に起き出してプリンター出して印刷して、マスキングテープ貼って・・・・・・・。こんなことやっていたの、ちょっと気恥ずかしいですね」
松永さんは、前出『あいの会』の仲間たちとともに、厚生労働省に犯罪被害者の特別休暇義務化の要望書を提出したり、学生たち若い世代へ交通犯罪被害者遺族の実体験を伝える『天羽プロジェクト』を開催。
また先日は、参議院の国土交通委員会で、被害者支援の実体を伝える意見陳述に参加するなど、その活動は刑事裁判が終わったからといって終わることはない。3年たって、交通事故だけに限らず、社会が少しでもよくなるための一助になればという思いが、原動力になっているという。
「いつか天国で真菜と莉子に会って、『やれることはやったよ。ふたりの命を無駄にしなかったよ』と胸を張って言えるように生きていきたいんです。でも、そんなときが来たら、まずは土下座しないといけないな、って思っています」
これほど、ふたりへの愛情をもって行動している松永さんがなぜ土下座を? と問いかけると、こんな答えが返ってきた。
「真菜も莉子も恥ずかしがり屋なのに、世の中にこんなに顔をさらしてしまったので……。きっと理解してくれるとは思うけれど、謝らなくちゃいけないですね」
取材・文/和久井香菜子
真菜さん、莉子さんの命を無駄にしない、という強い思いが、松永さんが行動する原動力になっている。
撮影/小野裕人