2004年2月、米国産牛肉の輸入停止で牛丼の販売休止を前に「最後の一杯」を求めたサラリーマンで大盛況の吉野家・有楽町店。昼食時に約30メートルの行列ができた(時事通信フォト)
吉野家に行ったとツイートしただけで叩かれる
吉野家は常に牛丼に本気だった。かつては商品展開や店舗展開など含め、同業他社と比べても実直(ある意味、愚直とも)だったように思う。歴代の役員は現場の叩き上げばかり、実際にたくさんのお客様に現場で牛丼をよそってきた猛者揃いである。高卒のアルバイトから吉野家を世界的なチェーン店に成長させ、「ミスター牛丼」とまで呼ばれた伝説の元社長(のち会長)をはじめ、下積み時代に吉野家でアルバイトをして夢を実現させた有名人など立志伝も多い。
「SNSでは吉野家に行ったとツイートしただけで叩かれてる人もいます。イメージキャラクターのタレントさんも茶化されてます。この方々も悪くありません。かわいそうです」
歪んだ正義なのか面白おかしく炎上させようとしているのかは知らないが、吉野家の牛丼を食べるお客は何も悪くないし、イメージキャラクターの藤田ニコルも悪くない。そもそも牛丼は美味しいし何の問題もない。悪いのはたったひとりの男である。この男ひとりだけを断罪すればいい。しかし正義は時として歪み、お気持ちで暴走する。
「私たちも謝るしかないのですが」
その場で彼らを謝らせて何の得があるのだろうか。ここまで来ると今回の事案と関係なく、それこそ客の立場を利用して欲求解消や迷惑行為を繰り返すクレーマー、いわゆるカスハラ(カスタマーハラスメント)ではないか。叩いていい空気になったら全力で叩くのはネットで繰り返されてきた行為だが、実のところリアルがネットに持ち込まれただけで昭和のころからカスハラは日本中に跋扈している。接客業に限らず客商売の経験者ならよくわかるだろう。
「謝る私たちも辛いです」
もちろん、外部から招いて役員に抜擢した責任は吉野家の経営責任ではあるし反省しなければならないだろうが、それと現場の従業員たちは関係ない。ましてや店でその件を持ち出して茶化したり、口汚く罵ったりなど言語道断で、その「生娘シャブ漬け男」と同じレベルと言われても仕方のない愚行である。
幸い、彼の店では客足に影響はなく、しばらく続くであろう一部の心無い客の行為さえ受け止めればいい、とのことで吉野家でのアルバイトは続けるそうだ。そもそも外部から来たわけのわからないコンサルが大学で変な授業をしただけで、それ自体は最悪だが牛丼も従業員もまったく悪くない。しつこいと思われるかもしれないが、本当にこれがわからない人が世の中にいる。