東京都内にも被害が

〈漆黒の噴煙が山の斜面を猛スピードで駆け下り、必死に逃げる住民や車を今まさに飲み込もうとする―─〉

 速度が遅い溶岩流に比べて危険度が高いのが「火砕流」の被害だ。1991年、死者・行方不明者合わせて43人の犠牲者を出した雲仙・普賢岳(長崎)の噴火で発生した火砕流の映像は日本中に衝撃を与えた。

「山頂周辺の急な斜面に堆積した軽石や火山灰などが崩壊して、周囲の空気を取り込みながら斜面を駆け下る現象です。時速100kmで600度を超え、火砕サージという高温の疾風を伴うことがある。富士山では噴火直後に発生する可能性は低いが、発生後に到達予想圏内にいたら避難は不可能です」(吉本氏)

 ハザードマップでは、火砕流は発生後、6分で東富士五湖道路を横切り、国道138号に迫る事態が想定されている。

 噴火後には火山灰が降り注ぎ、風に乗って広範囲に運ばれていく。昨年改定されたハザードマップでは火山灰の被害予測は更新されていないが、大規模噴火の場合、山梨県や静岡県の富士山近隣には50cm以上、神奈川県にも10~29cmの降灰が想定されている。遠方では東京23区をはじめ、埼玉県さいたま市や千葉県館山市、いすみ市、茨城県取手市などにも2~9cmの降灰可能性があるという。

「火山灰が10cm積もるとタイヤが空転して車に乗れなくなります。火山灰が首都圏に届くと交通網が麻痺して物流や生産もストップし、日本経済に甚大な被害が生じます」(吉本氏)

 どのように身を守れば良いのか。大切なのは、噴火の徴候に注意を払って行動することだ。吉本氏は、富士山の噴火が何の前触れもなく発生するとは考えにくく、必ず前兆現象が観測できると指摘する。

「噴火前に深部低周波地震やマグマが上がってくるような有感地震が発生するはずです。噴火の徴候があれば国や自治体からアラートが出るので、近くにいる場合はその時点で自主退避を始め、遠方にいれば富士山周辺に近づかないこと。今回、中間報告で徒歩避難が推奨されたのは避難時の渋滞を避けるためですが、なかには高齢や病気などで車でしか避難できない住民もいます。各自適切な判断が求められます」

 噴火の規模や火口の位置によって被害状況は異なる。様々な可能性を想定しておく必要がある。

※週刊ポスト2022年5月6・13日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン