実際、国内で厚生労働省に報告があった12人のうち、アデノウイルスの検査で陽性だったのはわずか1人。しかも、感染したアデノウイルスのタイプは英国で確認された41型とは異なっている。
こうした背景から急性肝炎の原因を特定するには時間がかかるという。
「小児の臨床においては症状の原因が不明であるというのはよくあることです。たとえば、発熱という症状一つでも、原因はさまざまあり、100%特定することは困難です。今回は海外で肝移植が必要なほどの重症例が出てきたので注目を集めていますが、子供は症状に気付きにくく、親にうまく伝えられないことも多い。親が気付いていない基礎疾患を抱えていることもある。原因を特定するにはかなり時間がかかると思います」(高橋医師)
コロナ対策の弊害との指摘も
今回の子供の急性肝炎は原因不明とされているだけに、さまざまな説が出ている。一部では、コロナワクチンが免疫に影響を与えたのが原因ではないかという指摘もある。5歳以上の接種が始まったこともあり、ワクチンと急性肝炎を関連付けて不安になっている保護者もいるが、この説について高橋医師は否定的だ。
「症例で報告されているほとんどが5歳以下で、海外でも日本でもコロナワクチンの接種年齢ではない。だから、ワクチンは関係ありません。コロナ感染の既往歴と関連があるという明確な根拠を示した論文や発表も出ていませんが、これについてはデータが集まってこないと何とも言えないでしょう」
では、仮にアデノウイルスが原因だとすると、一つの疑問が浮かぶ。昔からあったウイルスが、なぜ子供にだけ急性肝炎を引き起こすようになったのか。
高橋医師は、この2年間のコロナ禍における感染症対策により、子供たちが「免疫負債」を抱えてしまったのではないかと推測する。
「子供は幼いうちにさまざまな感染症にかかることで、強い体を作っていきます。手足口病などのウイルス性感染症に何度も感染しながら、高熱にも耐えられる体ができる。これはあくまで一つの仮説ですが、コロナ対策によって感染症を遠ざけた結果、免疫の基礎を持たない“免疫負債”を抱えた子供が増えているのかもしれません。本来かかるべき年齢を超えて感染したとき、症状がより強く出てしまうことも考えられます」