北海道新聞文学賞で佳作に選ばれ「はっとした」という河崎氏
より良いものを。そう思いながら、夜中に睡眠時間を削って三回目の応募原稿を完成させた。そして数か月後、北海道新聞文学賞の本賞を頂くことになった。『本賞受賞です、おめでとうございます』という電話連絡を受けた時は、嬉しいのとほっとしたのが半々だった。
昨年と同じ授賞式の会場で、滅茶苦茶に緊張しながらスピーチを行った。事前にネットで『スピーチ 緊張をとるには』と調べてみると、『冒頭で「緊張してます」とカミングアウトしてしまうと気持ちが少し楽になる』ということが書いてあった。よしこれだ、と話のアタマで「え~いつも人間よりも牛や羊に囲まれてるので緊張しています」と話したら少しウケたのでほっとしたものだった。
それから何を言ったのかはほとんど覚えていないが、確か、『山に登ることを許されたような気がします』ということを言ったような気がする。その後の受賞パーティーで、先輩作家さんから「まだあなた一合目までも登れてないからね!」と激励されて、またも私ははっとした。そうだ、やっぱりこれは、終わりではないのだ。もっと良いものを書かなければ、書きたい、もっと良い小説を書きたい、その思いばかりが膨らんでいくこととなった。
私は「世界のどの位置を占めるか」
その一方、佳作の時以上に、近隣の人からも反響は大きかった。「秋ちゃん、小説書くんだ~」と驚かれることが多く、恥ずかしくもあったが、ほとんどの人が身内のように喜んでくれた。
そんな中、知り合いの女性が「すごいね、おめでとう~」と言った後、さらりと続けた。
「文学賞なんかもらっちゃって、ますます嫁の貰い手がなくなるね~」
ご本人からすると親切な忠告のつもりだったのかもしれない。あるいは言葉面通りに皮肉だったのか。
とりあえず、「あはは、そうですね~」と笑って答えたが、勿論いい気分なわけがない。
父の介護がある限り恋愛や結婚のことなど考えられないし、願望ももともと薄いとはいえ、失礼な物言いには腹も立つのだ(というか、賞貰った女相手に腰が引けるような男は、そもそもこちらから願い下げだ)。