『三浦綾子文学賞募集』の文字を発見した河崎氏は「握力」で神様の前髪を掴みにいった
そんな折、いつものように仕事の休憩中に新聞を見ていると、『三浦綾子文学賞募集』の文字を発見した。三浦綾子。言わずもがな、北海道で文章を書く人間にとって伝説のような方である。その三浦先生が名作『氷点』を発表して50年という節目にあたり、一度限りの文学賞を開催するという。
そして、募集要項の最後の部分に私は釘付けになった。『受賞作は単行本化』という文言だ。
チャンスの神様は前髪しかない、とはだれが言った言葉だったか。私はスピードはないが握力にだけは自信があるのだ。羊の毛刈りで鍛えてるから。
よし。神様の前髪、掴みにいってみようか。そう思った。
文/河崎秋子
【プロフィール】
河崎秋子(かわさき・あきこ)/1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒業後、ニュージーランドで牧羊を学び、実家の酪農従業員の傍ら、2019年まで緬羊を飼育・出荷。12年「東陬遺事」で北海道新聞文学賞、『颶風の王』で14年に三浦綾子文学賞、16年JRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で大藪春彦賞、20年『土に贖う』で新田次郎文学賞受賞。『絞め殺しの樹』が第167回直木賞最終候補作にノミネート。