国内

【安倍氏銃撃】井沢元彦氏が分析「暗殺の“効果”が減じた現代には戦前と違う闇がある」

作家の井沢元彦氏は安倍氏銃撃事件をどう見る?

作家の井沢元彦氏は安倍氏銃撃事件をどう見る

 戦後初となる総理大臣経験者の暗殺事件がニッポン社会を大きく揺るがしている。なぜ悲劇が起きたのか、作家の井沢元彦氏が分析する。

 * * *
 第一報でまず疑問に思ったのは警備体制だ。私は政治記者の経験もあるが、要人警護に際して「後ろから忍び寄れる」というのはあり得ない。しかも1発目は外れたのに、SPが間に割って入れなかった。なぜできなかったのか。それが気になって仕方がない。あまりにお粗末だった。

 歴史を振り返ってみると、当然ながら命を狙われるのは存在感の大きな人だ。五・一五事件で暗殺された犬養毅氏などはその一例だが、反対側の陣営にとって目の上のたんこぶのような存在でないと、「殺す」という発想には至らない。

 その文脈で言えば、たしかに安倍晋三・元首相は憲法改正を阻止したい人たちにとって邪魔者だろう。ただ、だから殺すのかというと、それはちょっと違う。現代においては、そんなことをすれば逆効果だからだ。そこが戦前との大きな違いである。

 戦前は“やってしまえば通る”ところがあり、五・一五事件を起こした将校たちも、助命嘆願が殺到したことで死刑は免れている。戦前はそうした傾向があった。

 これは海外でも共通しており、戦前のような殺伐とした社会では、「政敵を暗殺すれば争いに勝てる」といったことが世界中であった。それが少しずつ「そういうことをすればマイナスの作用がある」という考え方に変わってきた。日本では明らかにそうした変化があるし、欧州も同様だ。

 嫌な言い方かもしれないが、暗殺というものの“効果”が歴史的に見れば減殺している。やる価値がなくなってきていると言えるのだ。

 現代においてはその代わり、思い込みや逆恨みといったことで犯罪が起きやすくなったのではないか。戦前は「この政治家のここが間違っているから殺した」という明確な動機があったが、今は後先を考えずに自分が殺したいという思い込みで罪を犯してしまう。現代社会のストレスのようなものが背景にあるのか、問題の根深さを感じる。

 そういう意味では、戦前の首相暗殺とは全く異質な事件だ。もちろん明確な動機があったとしても、暗殺など絶対に認められないが、今回のような偶発的な犯行を防ぐため、政治家の警護体制を見直すのが急務だろう。

※週刊ポスト2022年7月29日号

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン