国内

死産を経験した母親が前向きになるように 行き着いた1つの答え「エンジェルドレス」

死産の赤ちゃんは5cmくらいの子も、皮膚が弱い子も、いるという

生きて共に過ごすことはできなかったとしても「この子に会えてよかった」と思えるように…(写真はエンジェルドレス。柔らかな印象になるよう、生成りのコットン地に淡い黄色やピンク、グリーンのドレスを施した)

「最後に抱っこをしたい」──そう思っても、死産児は小さくて脆いため、それすらままならなかった。しかし、少しでも母親の気持ちに寄り添いたい。わが子との出会い、そして最後の別れを特別なものにするためにその女性は“天使のような産着”を作った。悲しみのなかに一筋の光を見出せるようにと願いを込めて。

 佐賀大学医学部附属病院(佐賀大病院)では、死産の赤ちゃん専用のドレス「エンジェルドレス」が用意されている。考案、開発したのは、看護師の山本智恵子さん(44才)だ。このエンジェルドレスについて、ノンフィクションライターの山川徹氏が綴る。【全4回の第4回。第1回から読む

 * * *
「たとえ死産だったとしても、お母さんがこの子に会えてよかったと思えるようなケアをしなければ、という意識をずっと持っていました」

 佐賀大病院の助産師である渡辺直子さん(52才)は、エンジェルドレス開発を山本さんに依頼した経緯を説明した。もともと看護師だった渡辺さんが助産師として働きはじめた約20年前は、エンジェルドレスどころか、死産を経験した母親の精神的なケアという発想すらない時代だった。とはいえ、助産師たちは分娩室で、死産という現実を突きつけられる。

 死産といっても、一人ひとりの背景や状況は違うという。母体にがんが見つかり、人工死産せざるをえずに強い自責の念を抱く母親、亡くなった胎児を自分のお腹にずっといさせてあげたいと懇願する母親……。渡辺さんは、そんな母親たちに寄り添ってきた。

「お腹の中で赤ちゃんが亡くなった若いお母さんには、外に出すのをもう少しだけ待ってほしいと何度もお願いされました。赤ちゃんの心臓が止まってしまったとわかっていたはずですが、受け入れられなかった。大切なわが子を、少しでも自分のお腹の中にいさせてあげたかったのかもしれません」(渡辺さん・以下同)

 だが、母体の安全上、それはできない。処置が終わると母親は、声をあげて泣いた。十数年前の出来事である。エンジェルドレスは開発されていない。

 渡辺さんは、赤ちゃんをきれいに清めて、柔らかい布に包んで母親の横に寝かせた。母親は、赤ちゃんの小さな手をずっと触り続けた。身体が冷たくなると、「赤ちゃん、寒くないかな」と心配した。

 亡くなっていたとしても、かけがえのないわが子に変わりはない。死産の赤ちゃんに、生きているかのように接する母親たちの姿に渡辺さんたちは、切実な問題意識を抱く。お母さんが、死産の赤ちゃんをきちんとお見送りして、前向きに生きられるようにサポートを確立しなければ、と。

関連記事

トピックス

各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン
理論派として評価されていた桑田真澄二軍監督
《巨人・桑田真澄二軍監督“追放”のなぜ》阿部監督ラストイヤーに“次期監督候補”が退団する「複雑なチーム内力学」 ポスト阿部候補は原辰徳氏、高橋由伸氏、松井秀喜氏の3人に絞られる
週刊ポスト
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“最もクレイジーな乱倫パーティー”を予告した金髪美女インフルエンサー(26)が「卒業旅行中の18歳以上の青少年」を狙いオーストラリアに再上陸か
NEWSポストセブン
大谷翔平選手と妻・真美子さん
「娘さんの足が元気に動いていたの!」大谷翔平・真美子さんファミリーの姿をスタジアムで目撃したファンが「2人ともとても機嫌が良くて…」と明かす
NEWSポストセブン
メキシコの有名美女インフルエンサーが殺人などの罪で起訴された(Instagramより)
《麻薬カルテルの縄張り争いで婚約者を銃殺か》メキシコの有名美女インフルエンサーを米当局が第一級殺人などの罪で起訴、事件現場で「迷彩服を着て何発も発砲し…」
NEWSポストセブン
「手話のまち 東京国際ろう芸術祭」に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年11月6日、撮影/JMPA)
「耳の先まで美しい」佳子さま、アースカラーのブラウンジャケットにブルーのワンピ 耳に光るのは「金継ぎ」のイヤリング
NEWSポストセブン
逮捕された鈴木沙月容疑者
「もうげんかい、ごめんね弱くて」生後3か月の娘を浴槽内でメッタ刺し…“車椅子インフルエンサー”(28)犯行自白2時間前のインスタ投稿「もうSNSは続けることはないかな」
NEWSポストセブン
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン