国内

安倍氏銃撃事件が示した「安心・安全な国、日本」の崩壊 暴力に満ちた社会に

「元首相」が暗殺されたのは、1936年の二・二六事件以来(写真/共同通信社)

「元首相」が暗殺されたのは、1936年の二・二六事件以来(写真/共同通信社)

 日本中が震撼した安倍晋三元首相の銃撃事件。殺人容疑で逮捕された山上徹也容疑者(41才)は、幼い頃は裕福な暮らしだったが、母親が入信する宗教団体「統一教会(現・世界平和統一家庭連合)」に多額の献金をするようになり、家庭が崩壊したと報じられている。

 そして、統一教会への恨みを募らせ、やがて統一教会の友好団体にメッセージを寄せるなど、祖父の岸信介元首相の代からかかわりがあったとされる安倍元首相に殺意を抱くようになった。

 銃撃事件の直後から、ネット上には「山上を即刻死刑にしろ」「安倍は殺されて当然だ」「国葬なんて、死んでまで税金を食うのか」などと、暴力的な議論や主張があふれている。社会心理学者の碓井真史さんは、このままでは、日本全体が乱暴な空気に飲み込まれてしまうと危惧する。

 実際に、1つの凶悪事件によって、民衆が暴走した苦い経験が日本にはある。1932年5月15日、武装した海軍の青年将校らが首相官邸を襲撃し、犬養毅首相らを殺害した五・一五事件だ。私人と海軍軍人が総理大臣を殺害した完全なるテロ事件だが、国民はテロリストに同情して「彼らは悪くない。悪いのは政治家だ」と声を上げ、裁判では助命嘆願書まで提出した。国際政治学者の宮坂直史さんが説明する。

「この国民の風潮に軍部が便乗して政治を乗っ取って戦争に突入し、日本から自由や民主主義がなくなっていったのです。つまり、国家のシステムが破綻する原因を、民衆の感情の暴走が作ってしまった。

 今回の事件も、参院選の直前だったことから“民主主義を破壊する行為だ”という声が多い。五・一五事件では、テロを受けた側であるはずの国民が過剰に反応して、結果的に自由と民主主義が破壊されました。この歴史を忘れてはなりません」

 ここでもう1つ、歴史上の出来事を振り返ろう。1950年7月2日未明。京都市北区の金閣寺が業火に包まれた。のちに三島由紀夫の小説のモデルにもなった金閣寺放火事件だ。放火犯は大学生の見習い僧で、金閣寺そのものに恨みはなく、世間を騒がせたいという理由で、国宝を全焼させた。

「昔から、有名な建築物を破壊したり、著名人を倒すことで“おれの力を見てくれ”と承認欲求を満たすテロリズムがあります。山上の動機は個人的な怨恨でしたが、報道を見て“元首相でも、簡単に殺せるのか”と考えた人間が、自分の力を誇示するために政治家などの有名人や価値のある建造物などを襲撃する可能性を危惧すべきです」(宮坂さん)

 すでに、動画投稿サイトに「安倍晋三と同じようにショットガンで無差別級殺人事件を起こしてやる」と書き込んだ男が逮捕されている。反社会的な行為は、それがショッキングで影響力が大きいほど、一部で“ダークヒーロー”として偶像化されることも問題だ。

関連記事

トピックス

球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン