日本はもはや暴力に満ちている
名もなき一般市民が、国家の要人をいとも簡単に殺害した、今回の事件。警備の手薄さが批判されているように、今後は「銃を使った暗殺事件なんて起こらない」「一般人が要人暗殺を企てるはずがない」という、従来の性善説に基づいた考え方を改める必要がある。犯罪心理学者の出口保行さんが言う。
「『安心・安全な国、日本』というキャッチフレーズは、もはや通用しません。いつ、何が起こるかわからず、誰が犯罪者になるかもわからない。残念ながら、すべての人が性悪説にもとづき、緊張感をもって行動すべき世の中になっています」(出口さん)
宮坂さんは、人が多く集まる場所や、著名人の訪れる場所は、巻き添えになるリスクがあると語る。
「山上容疑者が自作した銃は、6つの弾を同時に発射する散弾銃に近い構造。それを2回撃ったと報じられています。つまり、合計12個の弾が発射されたということ。安倍元首相以外の人が被弾していた可能性は充分にある。ほかの犠牲者が出なかったのは、不幸中の幸いです」(宮坂さん)
人を殺すための道具や知識は、その気になれば簡単に手に入れられる。そして、社会から隔絶されたと感じ絶望する人が増えるのを止めるすべは、私たちにはない。
ウクライナで戦争が続き、アメリカ独立記念日のパレードで銃乱射事件が起こり、そしてわが国では、元首相が暗殺された。世界中が暴力で満たされているいま、私たちにできることは、増え続けている「無敵の人」が凶行に走る後押しをしないようにすること。
「銃や爆弾ばかりが暴力ではありません。フェイクニュースや誹謗中傷も、数が集まれば人を自殺に追いやったり、殺人の後押しをする、立派な暴力です。世界中で分断が進み、手段を選ばず相手を叩きのめそうとする言動がエスカレートしています。殺伐とした罵り合いばかり激しくなる世の中の流れに、そろそろブレーキをかけなければなりません」(碓井さん・以下同)
自動車のハンドルを握ると人が変わる人がいるように、スマホやパソコンの前で人格が変わる人は少なくない。人は匿名で発言するとき、普段よりも過激な言葉を選ぶ傾向があることもわかっている。