松井秀喜5打席連続敬遠に怒った観衆からグラウンドに投げ入れられたコップなどを拾う星稜ナイン(時事通信フォト)

松井秀喜5打席連続敬遠に怒った観衆からグラウンドに投げ入れられたコップなどを拾う星稜ナイン(時事通信フォト)

「坂崎大明神」に4打席敬遠、1打席の勝負

 もちろん勝負をしても、松井が打ったかどうかはわからない。だが、その37年前の選抜大会では大会No.1スラッガーに勝負したことで優勝を逃したチームがあった。

「1955年の春、浪華商業に坂崎一彦選手という強打者がいました。『坂崎大明神』と呼ばれ、この大会の打率は6割と打ちまくった。決勝戦の前に、桐生の稲川東一郎監督は全打席敬遠を命じました。しかし、3打席目に今泉喜一郎投手は勝負を挑み、逆転2ランを浴びてしまった。4、5打席目はまた敬遠しましたが、延長11回裏に浪商がスクイズでサヨナラ勝ちをした。3打席目も坂崎を敬遠していたら、桐生が優勝していたでしょう」

 明徳義塾は馬淵監督の指示通り、河野投手が敬遠をした。浪商は稲川監督の指示を拒否し、今泉投手が勝負した。この差はどこにあったのか。

「今泉投手は準々決勝でノーヒットノーランをしていた大会屈指の右腕でした。河野投手は2年の終わりからピッチャーをしておらず、3年の夏に復帰した。背番号も8でエースナンバーではなかった。今泉投手はピッチャーとしての本能が優ったのかもしれない。河野投手は冷静であり、ブーイングに動じない度胸もあった」

 坂崎は1956年巨人に入団し、3年後に打率2割8分4厘、15本塁打、64打点で外野手としてベストナインに輝き、オールスターにも3度出場した。長嶋茂雄と共に巨人を背負う打者になると期待され、8年連続100試合以上に出場して主力として活躍した。ただ、選抜の決勝で4打席敬遠された程のインパクトはプロでは残せなかった。

 松井は1992年11月のドラフト会議で、中日、ダイエー、阪神、巨人と4球団に1位指名され、長嶋茂雄監督が当たりくじを引いて巨人に入団。押しも押されもせぬ球界の4番打者に成長し、2003年にヤンキースに移籍。その6年後、ワールドシリーズで日本人初のMVPに輝いた。松井のその後の大活躍が『5打席連続敬遠』を特別なものにした──。

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