医療ジャーナリストの村上和巳さんは「一般的に検査を受けるメリットは治療が早期にできて、重症化を防げることだが、新型コロナのPCR検査はこれに当てはまらない」とする(写真/GettyImages)
がんには「多様性」がある
日本人の2人に1人が罹患するとされるがんの治療も、何でもやみくもに受けるべきではない。岡田さんの指摘。
「そもそもがんには転移しやすく悪性度が高いものと、放っておいても消えるものや転移しにくいものがある。つまり“多様性”があるのです。急いで対処する必要のないがんを無理に早期発見して治療することは、不必要に体に負担をかけます」(岡田さん)
東京大学医学部附属病院放射線科特任教授の中川恵一さんも、がん治療は「がんの特性を見極めることが重要」と指摘する。
「“がん”という病気でひとくくりにせず、その特性を見て個別に対処すべきです。例えばすい臓がんの5年生存率は10%未満ですが、前立腺がんは100%。後者であれば経過観察さえしておけば問題がないタイプも多い」(中川さん)
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが懸念するのは、海外と比較して日本人は開腹手術や開胸手術を気軽に行う傾向があることだ。
「欧米では放射線治療や腹腔鏡手術など体への負担が少ない治療を優先的に選択することが一般的ですが、日本ではそうした傾向はまだ少ない。手術で病巣を大幅に取り除くことで生活の質が下がるケースがあるものの、手術前にそうした情報が患者に充分に提供されないことも少なくありません。
また、大きな手術になればそれに伴い、入院日数も長くなる。長期間にわたる入院生活は体の機能を低下させます。実際、入院日数は少ないほど予後がいいという調査結果もあります」(室井さん)
手術にデメリットがあるのはがんだけではない。
「日本では椎間板ヘルニアなどでよく手術が行われますが、各専門医学会が検証のうえ無駄だと考えられる医療の項目を公表する『チュージング・ワイズリー(賢明な選択)』では、腰痛は運動をはじめとした生活習慣の改善で痛みを軽減させ、なるべく手術なしで治療すべきだとされています。エックス線で見つかる骨の異常と痛みの原因が一致しないことも珍しくなく、手術しても痛みがとれないケースもあり、治療の手段として手術は効果的とは言えないのです」(室井さん)