國分氏と親交があった安倍晋三元首相(写真/時事通信)
「入校と同時に1学年には2学年の世話係がつく。これを『対番制度』と言いますが、新入生が防大生活に慣れるまで続けられます。そうして縦の繋がりに支えられながら“知・徳・体”を鍛えますが、この先輩・後輩の関係が自衛隊に入ってからもずっと続く。防大卒業生の多くは、『生まれ変わっても防大に入る』と言います。慶大時代に『三田会』という同窓組織の強さを見てきましたが、防大の同窓会は比較になりません。現役の学生や自衛隊員に対するリスペクトが非常に強く、信頼関係が醸成されている。私も校長に就任後、口を出されるどころか『何かあったら何でも同窓会に言ってください』と声をかけてもらった。最近では『父が防大卒』という“二世”も非常に多い。そうした影響からか女性の学生も増えてきています」
防大生の課題は「英語力」「国際経験」
学校長としては、国際政治の研究者という立場からも感じていた「英語力」の強化に務めた。
「在任中、私は各地の自衛隊組織を訪れてきました。その際に、卒業生に『もし防大生に戻れたら何をしたいか』と聞くと、誰もが共通して口にするのが『もっと英語を勉強しておけば良かった』ということです。世界情勢が揺れるなか、米軍との連携のみならず世界の軍隊との様々なレベルや形での安保協力は拡大している。当然、学生の国際化へ向けた制度化も不可欠です。そこで英語教育をよりシステム化するとともに、英語成績での個人表彰などを取り入れました。今後はより学生に海外経験を積ませていくことが課題ですね」
安倍元首相に頼むと「それで結構です」と即決
そうした自らの体験をまとめた書籍を執筆するなかで、校了する日(7月8日)に親交があった安倍晋三元首相が凶弾に倒れた。
「防大の卒業式は全国的に有名です。学生たちの『帽子投げ』の姿を見たことがある方も多いのではないでしょうか。その卒業式には教育機関で唯一総理大臣が必ず臨席します。私の在任中、8回は安倍晋三総理、最後の1回は菅義偉総理でした。この卒業式の後、すぐに新装の自衛官服に着替えてから会場に戻り『自衛官任命宣誓式』となります。これまでは総理大臣の時間的都合で、陸海空各自衛隊の制服に着替えずに学生服のままで任命宣誓式をやっていました。帽子投げはその後で、その時総理は退席していました。
しかし、2013年安倍総理に、まず帽子を投げて学生舎に戻り、各自衛隊の制服に着替え、式場に戻ってから任命宣誓式にしたいと直接お願いしたところ、『それで結構です。自衛隊最高指揮官として最後までいます。帽子投げも壇上で見たい』と即決していただいた。私が防大校長の間、何度かお願いに伺ったことがあったが、いつも柔軟にご理解とご協力をいただいた。ご冥福をお祈りしています」