最後のステージを迎える
「作業場に加山さんが、“あぁ、やってるね”って感じでチャチャを入れに来たんです。で、いきなり“谷村さ、アインシュタインの相対性理論って知ってる?”って聞いてきて、ぼくが“よくわからないです”って言うと、ホワイトボードを使って延々と説明を始めた。
ぼくとしては加山さんの説明を聞いていなくちゃいけないし、でも頭の中は作詞のことでいっぱいでそれどころじゃない……すごく複雑な心境でしたね(笑い)。でもそれは加山さんらしいエールの送り方。おかげでちょっと気分転換になったんです。
サビの部分がすごく印象的で、最初に浮かんだのが“サクラ吹雪のサライの空へ”というフレーズでした。そこからダーッとスピードが上がって歌詞が出来上がりました」
作詞している間は、8時間何も食べた記憶がなく、完全に食欲がフリーズしていたという谷村。それほど集中と緊張を伴う作業だった。『サライ』はペルシャ語で「家・宿」を意味する。なぜ谷村はこの言葉を選んだのか。
「年齢や性別に関係なく心に響くものにしたいと思っていました。寄せられたFAXを見ると『ふるさと』をテーマにされている言葉がすごく多かったので、それぞれの『心のふるさと』と重ねた物語にしたいと思った。『サライ』は砂漠の中のオアシスというイメージがぼくの中にあったので、“『心のふるさと』として誰もが帰る場所がある”という思いを伝えたかった」
そのとき総合司会を務めていた徳光もこう振り返る。
「あの15回目は『24時間テレビ』にとって記念すべき回だったんです。それまでは、あまり知られていない福祉活動や海外の難民などを中心に取り上げていました。それをあの回から“テレビだからこそより広く視聴者に参加してもらえるようなエンターテインメント性を持たせよう”と、音楽を中心に、メインパーソナリティーが体の不自由なかたといろいろなことに挑戦するようになった。
加山さんが“2度聴いたら覚えられるような”と言って作られた覚えやすいメロディー。そして谷村さんは送られてきたFAXに丁寧に目を通し、言葉を拾い上げて歌詞を紡がれた。そうして出来上がったのが『サライ』なんです」
※女性セブン2022年9月8日号
“後輩”の谷村は音楽活動を続け、11月17日にはアリスのライブ「ALICE GREAT 50 BEGINNING 2022」を行う