東京ドームのタイトルマッチはタイソン絶頂期であり、バブル華やかなりし最盛期のイベントだ。そこに味をしめた高橋は1990年2月、もう一度タイソンのタイトルマッチを企画した。実はそこには弟の治則も手を貸しているという。電通関係者が打ち明けた。
「スポンサー探しに困りましてね。高橋(治之)さんが5億円のリングスポンサーとしてミサワリゾート(ミサワホームグループ。現・リソルホールディングス)を見つけてきたけど、そこには裏がありました。弟の治則さんがミサワ側にスポンサー代金のバックを約束していたのです。だからミサワは1銭も払わず、タイトルマッチのスポンサーになれたわけです」
5億円のリングスポンサーとは、マットやコーナーポストに企業名が大きく書かれる広告主のことだ。2度目のドームイベントは、タイソンが相手のジェームス・ダグラスにノックアウトされ、東京ドームの奇跡と呼ばれた。やがて高橋は、2002年のサッカー日韓W杯実現の立役者と呼ばれるまでになる。
その高橋がスポーツビジネス界に君臨できたのは、実弟の治則に負うところが大きい、と親しい関係者は口をそろえる。イ・アイ・イグループを率い、バブル期に1兆円の財産を築いた治則は、国会議員や財務省のキャリア官僚をプライベートジェットに乗せ、自ら経営する香港や豪州のリゾートホテルに案内してきた。それだけでなく、実兄の治之も弟のプライベートジェットを自由に使った。ペレを日本に連れてきたのもその一つだが、治之は芸能人も頻繁に誘い、接待役にしたという。
高橋にとって2021東京五輪は、そんな金満スポーツビジネスの延長線上にあったのであろう。その闇は底が知れない。
【プロフィール】
森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ──「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。近著に『菅義偉の正体』『墜落「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』など。
※週刊ポスト2022年9月9日号