近年は、日本人ノーベル賞受賞者たちから日本の研究への不安が何度も語られている。2021年にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さん(左、AFP=時事)
日本は国家としての役目を放棄している
理研の研究者、および研究チーム関係者が2022年度末を目処に約600人も雇い止めにされる恐れがあるという件は拙ルポ『「理研600人リストラ」に中国人ITエンジニアは「不思議です」と繰り返した』で報じた通りだが、これを報じた4月から、理研労組によればすでに約100人が理研を去ったという。理研側は8月現在、いまだに労組への回答を先送りしている。
「理研といえば日本の基礎科学研究の最高峰です。科学で食べていくしかない国が、その最高峰にいる中の600人もを切り捨てる、いまは結果が出なくとも、いつ日本を食べさせてくれる研究成果を上げてくれるかわかりません。かつてはそうして科学立国日本を築き上げたのに、この国は何で食べていく気なのでしょう」
前述のルポで中国人技術者は「優秀な研究者をクビにすることは、他国に渡すのと同じです」と言っていた。また「研究は結果がすぐ出るわけではありません。とくに基礎研究は百年かかるかもしれません。それでも国のためになるなら続けるべきでしょうし、必要な人はとっておくものです」とも言っていた。国は違えど研究者、技術者ともに思うところは同じということか。
理研といえば湯川秀樹、朝永振一郎、利根川進など錚々たるノーベル賞学者を輩出した名門である。みな決してすぐに結果が出たわけではないし、ことによってはまるで理解されなかった時期もあった。それでも研究を続けた。理研も、国もそれを助けた。これが国家というものだ。
「いまの日本は国家としての役目を放棄しているということです」
厳しい言い方だが、これもまた同じ研究者としての切なる思いから来るものだろう。石油、石炭、鉄、銅、ニッケル、ボーキサイト、天然ガス、レアメタル、レアアースと、何もかも輸入に頼る国なのに研究まで放棄しては、研究者という人材まで海外に流出させて困るのは日本だというのに。基礎研究は多くの方に馴染みがないかもしれないが、これこそ国家の礎、アメリカも中国も21世紀の覇権を握るために力を入れている。
「私の現役時代、とくに1990年代からそうですが、この国は理系軽視で文系の下で理系が働く、文系が管理して理系が現場、という構図がより強くなったように思います。これは官も民も同じでしょう。私も身をもって経験しています」
文部科学省は旧来の「天下り」はもちろん、天下り批判を避けるためか「現役出向」も加える形で国立大学法人を牛耳ってきた。このことを2017年、河野太郎衆議院議員が「国立大は文科省の植民地」と与党議員ながら予算委員会で批判している。世界的な機械メーカー、富士ゼロックス(当時)のサラリーマンだった河野氏らしい指摘だが、実際に文科省は補助金や新設学部の設置許可を人質に、OBの天下りや職員の現役出向を常態化させていた。それはいまも変わらない。