国内

国立大学でも研究者の大量雇い止め危機 若者の研究に猶予を与えられない国家でいいのか

雇い止め撤回を求める訴訟を起こし、記者会見する理研の研究者。2022年7月(時事通信フォト)

雇い止め撤回を求める訴訟を起こし、記者会見する理研の研究者。2022年7月(時事通信フォト)

 文部科学省科学技術・学術政策研究所が発表した「科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査)」が、日本の科学技術力の低下を示していると、衝撃をもって受け止められている。なかでも自然科学分野で多くの研究者に引用された質の高い論文の2018~2020年の年平均数調査で日本は前年の10位から韓国にも追い抜かれ12位に転落。2000~2002年は米国、英国、ドイツに次ぐ4位だったのが、2006~2008年から順位を下げ続けている。俳人で著作家の日野百草氏が、科学技術立国を支えてきた日本の科学者たちが置かれている環境についてレポートする。

 * * *
「アジア各国、とくに中国の基礎科学分野の伸びは本当に凄い。その陰には日本人研究者もいます。このまま日本国内の冷遇が続けば、さらに海外、もちろん中国に協力する日本人研究者が増えることでしょう」

 関東の国立大学で博士号を取得、いくつかの大学、民間企業を渡り歩いた70代の元研究者が語る。本稿、専門用語や一般的でないと思われる言い回しは平易に置き換えた。あくまでアカデミズムの界隈に馴染みのない多くの方にも知っていただきたいという趣旨である。

「国立大学法人化からしばらくでしょうか、国から国立大学への運営費交付金が減らされ続けた結果、ということです」

 日本の国立大学は2003年制定の「国立大学法人法」により各大学とも法人化された。それにともない2004年度から国の運営費交付金は削られ続け、2022年現在で約1300億円も削減された。国立大学の学費が高騰しているのもその影響で、現在の標準額(近年は国立大学も各大学により異なるため標準額とする)の1年次81万7800円(入学金含む)は私立大学(以下、学費平均値による)と比べても、その差は約1.6倍しかなくなっている(文部科学省調べ)。1975年は5.1倍と国立は圧倒的に安かった。それが現在は入学金に至っては約1倍、国立も私大もほぼ変わらない。

 それでも理系となれば圧倒的に国立大学のほうが安いが、昭和のころのような「国立大学なら誰でもバイトで学費も生活費も全部まかなえる」という時代はとうに終わっている。いまの50代の方々の大学時代(1980年代ごろ)に30万円から40万円ほどだったことを考えるとほぼ倍である。

「学生にも影響ありましたが、やはり研究者に一番のしわ寄せが来た形です。理化学研究所(以下、理研)の件もそうですが、国立大学も同じような研究者の不遇とリストラ問題を抱えています」

関連キーワード

関連記事

トピックス

クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月20日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン